安全設計の基本-フェールセーフとフールプルーフ-

安全設計の基本-フェールセーフとフールプルーフ- アイキャッチ 機械設計

機械設計の仕事をしていると、客先や会社の上層部から様々な仕様要求が降ってきます。その仕様をどう実現するのかを考え、技術を駆使して形にしていくのが機械設計の仕事です。しかし、どんな機械であっても最も優先されるべきなのは”安全”です。仕様を実現するために、安全を犠牲にすることは許されません。本記事では、安全設計の基本思想であるフェールセーフフールプルーフの考え方について誰にでもわかるように簡単に説明していきます。

フェールセーフとフールプルーフってなに?
そもそも安全設計ってどんなものかわからない
・・・


そんなあなたでも大丈夫。本記事を読むことで、安全設計の基礎知識を身につけることが出来ますよ。では、早速いきましょう!!

安全ってなんなの?

安全設計の思想を理解するためには、そもそも“安全”とはなんなのかを理解しておく必要があります。危険がないこと、怪我をしないこと、安心して使えること・・・などなど、安全という言葉を聞くと、なんとなくこれらのイメージが思い浮かぶと思います。このイメージも間違いではありませんが、機械設計の世界においては”安全”という言葉は下記のように定義されています。これは必ず覚えましょう。

安全とは・・・受容できない“リスク“がないこと

です。なるほど、なにを言っているのかさっぱりわかりませんよね。でも大丈夫、ここから一つずつ紐解いていきましょう。まず、“リスク“とはなんなのでしょうか。リスクは下記のように定義されています。

リスクとは・・・危害の発生確率と危害のひどさの組み合わせ

この定義を言い換えるとリスク = 危害のひどさ x 危害の発生確率となります。つまり、重大な被害を及ぼす危険があっても発生確率が著しく低くければリスクは低く、逆に小さな危険であっても発生確率が高ければリスクは高くなります。このようにリスクとは危険の度合いと発生確率の積で求めることができます。

例えば、飛行機の墜落というのはとても恐ろしいですよね。しかし、飛行機が墜落する確率は非常に低いので、リスクは低いといえます。自動車の事故は、軽傷も場合もあれば重症もあり得るので危害のひどさで言えば、飛行機の墜落よりは低いですね。でも、事故を起こす確率は墜落に比べて圧倒的に高いので、リスクで考えると

リスクの定義

となります。つまり、飛行機よりも自動車の方がリスクが高いと言えます。これはあくまでも一例ですが、なんとなくリスクという言葉の意味が掴めてきましたよね。

さて、ここで安全の定義に戻りましょう。安全とは”受容できないリスクがないこと”ですので、逆に言えば”受容できるリスクはあってもよい”ということになります。安全とは、まったく危険がない状態ということではありません。受容できる範囲の危険であれば、危険は存在していてもよいのです。つまり安全を実現するには、その機械が抱える全てリスクを受容可能なレベルまで下げてあげればよいわけです。

安全設計の基本

リスクを下げるアプローチは上述の通り

・危害のひどさを下げる
・危害の発生確率を下げる


の2パターンがあります。この考えが安全設計の基本となります。これらの2つのアプローチを実現するために用いられる手法がフェールセーフ、フールプルーフです。

※どこまでのリスクが受容可能なのかは、リスクアセスメントという手法でリスクを数値化して判断します。様々な部署の有識者が集まり、機械のリスクについての評価を行うのが一般的です。リスクアセスメントの詳細な説明については本記事では省略します。

フェールセーフの考え方

フェールセーフ(fail-safe)とは、機械が故障した場合や誤った使用をされた場合に必ず安全な方向に導くという設計思想です。機械は必ず壊れるものなので、安全に壊れるように設計する必要があります。

火災報知器を例に挙げて説明します。

火災報知器は火災を検出して警報を鳴らしているように見えますが、実は違います。火災が起きていない状況を検出して、「火災は発生していませんよー」という信号を出し続けています火災が発生したときにはその信号が切れるようになっており、信号が切れたら警報が鳴りだします。

こうすることで何が良いかというと、火災報知器が壊れてしまった場合(例:天井裏で配線をネズミがかじって断線)、信号が途絶えて警報が鳴ります。それにより火災報知器の故障に気が付くことができるわけです。火災報知器で絶対に起きてはならない故障は、”火災が発生しているのに検知できない”ということです。この故障が発生すると人命に関わります。故障で警報が鳴ってしまうのは、鳴らされた方からすれば迷惑な話ですが、人命に関わらない安全側の故障です。これが安全に壊れるということです。

フェールセーフの例(火災報知器)

このようにフェールセーフの思想設計はリスクの話でいう”危害のひどさを下げる”アプローチとなります。フェールセーフの設計事例として、もう一例紹介します。

フェールセーフの例(原子力発電)

上図は原子力発電の簡略図です。左は沸騰水型原子炉(BWR)、右は加圧水型原子炉(PWR)と呼ばれるものです。原子炉では、燃料棒の間に制御棒を挿入することで核分裂反応を制御しています。沸騰水型原子炉では、制御棒は下から挿入され、加圧水型原子炉では上から挿入されます。万が一、制御棒が挿入できなくなったら反応が進みメルトダウンを起こしてしまいます。さて、この二つの原子炉はどちらがフェールセーフ設計となっているかわかりますか?

フェールセーフの例(原子力発電)2

正解は右の加圧水型原子炉です。制御棒は吊り下げられる形で電気的に保持されており、挿入の際は保持が解除され自重で降りてきます。何らかの事故で、電力供給がストップした場合は、電気的に保持されていた制御棒が保持されなくなり勝手に下りてくるため、安全側に故障します。つまりはフェールセーフとなっているわけです。沸騰水型原子炉は制御棒を下から挿入するため、電力が無ければ制御棒を挿入することができませんので、危険な故障となります。

※だからと言って沸騰水型原子炉が危険というわけではなく、あくまで設計思想の一例です。構造上のフェールセーフを保てない代わりに、ガス圧で昇降したり、何重もの予備電源を持つことでリスクヘッジしているようです。

安全側に壊れるというイメージが掴めましたか?続いて、プールフルーフについて説明します。

フールプルーフの考え方

フールプルーフ(foolproof)とは、機械の使用者が誤った操作ができないような構造・システムにするという設計思想です。フール(fool)とは、愚か者、馬鹿者という意味です。プルーフ(proof)とは防ぐ、避けるという意味です。化粧品のCMなどでよくウォータープルーフマスカラなんて言葉を聞きますよね、そのプルーフです。つまりは、フールプルーフは”馬鹿を防ぐ”ということです。フールプルーフは現場用語では、バカよけ、ポカよけなんて呼ばれたりもします。

人間は必ずミスをします。誤った操作や危険な使い方をされるのを前提として、どんな操作をしても必ず安全を保つ構造・システムがフールプルーフです。逆に故意に誤った使い方をしようとしても、できないような仕組みになっています。

身近な例で説明すると、自動車のエンジン始動などはフールプルーフです。AT車であれば、シフトをパーキングに入れてブレーキを踏まなければ、エンジンを始動することができません。こうすることで、始動と同時に発進してしまうリスクを無くすことができます。「俺はエンジン始動と同時に全速力で走りだしたいんだ!!」という危険思想の人がいたとしても、どんなに頑張っても無理です。このように仕組みで安全を確保するのがフールプルーフの思想です。

フールプルーフの説明

このようにフールプルーフの思想設計はリスクの話でいう”危害の発生確率を下げる”アプローチとなります。

私は趣味でバイクに乗るのですが、バイクにはサイドスタンドというものが付いています。バイクを止めた際、倒れないように支えておくアレです。自転車にも付いていますね。バイクはサイドスタンドを出したままだと、発進することが出来ないようになっています。スタンドを出したまま、曲がろうとしたときに突っかかって転ぶ可能性があるからです。これもフールプルーフの設計思想です。当然スタンドが出ているかどうかを検知するセンサーが付いているわけですが、これが壊れるとエンジンが掛からなくなってしまうんです。これはフェールセーフの思想ですね。

フールプルーフ バイクのサイドスタンド

私が設計している工作機械もフールプルーフの設計思想が組み込まれています。工作機械の機内では刃物で金属を削っているため非常に危険です。当然、ドアが閉まっていなければ自動運転をかけれないようになっています。ただ条件は一つではなく、様々なセンサを使い機械の状態を監視しています。全ての条件がOKになったところで初めて自動運転を始めることができます。このような仕組みは”インターロック”と呼ばれます。フールプルーフを実現するための設計手法の一つです。上述の、車の例もバイクの例もインターロック手法です。

インターロックの説明

インターロックの他には、タンパープルーフという手法もあります。これは機械の不正な改造やいたずらによる危険を防ぐ設計手法です。使用者に分解されたら困る部分に関して、普通の工具では外せない特殊なネジを使用したり、ネジ穴を潰して取り外せなくするという手法です。

まとめ

本記事の内容を復習しましょう。

・安全とは、許容できないリスクがないこと
・リスク=危害のひどさ x 危害の発生率
・フェールセーフは、安全に壊れること
・プールプルーフは、失敗しない仕組み


冒頭でも書きましたが、機械設計において安全は最優先事項です。それを超える優先度のものは存在しません。設計者は、技術的な課題や納期に迫られて、精神的に追い詰められるものですが、そういった環境の中でも常に安全第一とした正しい判断が必要です。

普段何気なく使っている製品でも、フェールセーフやフールプルーフの設計思想のもとに設計されているはずです。身近なフェールセーフ、フールプルーフを探してみると何か新しい発見があるかもしれませんね。是非そういった視点で製品や物事を見るように心がけてください。世の中の技術者達があなたを守るために、どれだけ工夫を凝らしているかがよくわかるはずですよ!!

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