歴史から学ぼう!!設計失敗学-大理石円柱の保管失敗事例-

設計失敗学

失敗から学べることは多くあります。例えそれが自分の失敗でなくても、失敗を考察することで教訓を得ることができます。そこで今回は有名な設計失敗事例を紹介し、考察していきたいと思います。

 

今回の失敗事例は、大理石の円柱の保管方法に関する失敗事例です。

 

設計変更に潜むリスクを考えてみよう

大理石の円柱 保管方法 変更 説明1

 

あなたは古代ローマの建築職人だとしましょう。神殿の建築に用いる大理石の円柱は、上図のように両端を枕木で支えて水平に置いてあります。このように保管された円柱は、たまに自重により真ん中からポキッと折れてしまうことがありました。大理石の円柱は非常に高価なものであり、取り扱いには細心の注意を払う必要があります。とある職人仲間がこう提案しました。

 

「自重で折れることがあるなら、真ん中に支えを追加すればより安全に保管できるだろう」

 

周りの職人は彼の意見に賛同しています。さて、あなたはこの提案をどう思いますか?

 

大理石の円柱 保管方法 変更 説明2

 

誰もが良いと思ったこの変更を行ったことで、数か月も経たないうちに大理石の円柱は新しく加えた支えの上でたちまち折れてしまいました。なぜこんなことが起きてしまったのでしょうか。折れてしまった円柱をどかして枕木を見てみると、一方の端にあてがっていた枕木が腐って潰れていました。円柱は保管していくうちに少しずつ沈み込んでいたのです。従来の両端2点で支える方法であれば、枕木が腐って潰れても一緒に円柱も沈み込んでいくだけでした。しかし、中央に支えを追加したことで、枕木が潰れいくと中央と端の2点で支え、片方が支えなく宙ぶらりんになるという“新しい状態”が生まれてしまいました。この状態は従来の支えよりも大理石の円柱としては厳しい条件となってしまうため、たちまち円柱は折れていったのです。

 

誰もが良いと思った変更がもたらした悲劇。これはどんな設計変更にも潜むリスクです。

この事例からの教訓を考えよう

一見して、非の打ち所がない改善に見える設計変更というのは往々にしてあります。大理石の保管方法の例も然り、提案した瞬間は誰もが納得してしまいます。では、なぜ誰もが納得してしまったのでしょうか?

 

それは、“その瞬間だけ見れば成り立っている”からです。提案自体は間違っておらず、論理的に正しく見えるので皆が納得します。改善できたことに満足して、その変更が与える副作用を検討することがすっかり忘れ去られてしまうのです。

 

設計変更は、薬の処方と同じです。お医者さんは抱える症状に対して、症状を抑えるような薬を出すのか(対症療法)、症状の原因を取り除く薬をだすのか(原因療法)、どちらが有効かを判断して薬を処方します。設計者も不具合・問題点という症状に対して、設計変更という薬を処方するわけですが、薬には必ず副作用があります。この副作用を正しく捉えることが設計変更のキーポイントです。

 

設計変更と薬の処方は同じ

 

大理石円柱の例で言えば、”自重で円柱が折れてしまう”という症状に対して、”中央に支えを追加する”という処方をしたわけです。最初は問題なく症状が緩和されているように思われましたが、時間の経過とともに副作用が現れ、本来よりも症状が悪化してしまいました。設計変更の副作用を考える場合、二つの視点で考える必要があります。一つは影響の広さ、もう一つは時間軸です。設計変更がどのくらいの範囲に影響を与え、更に時間経過・劣化・摩耗でどのような影響を与えるか。この意識が大切です。ただ、意識できても実際の現象は複雑で、自分自身でどんなに頑張って考えても限界はあります。具体的にどう考えていけばよいのかは、体系化されています。

 

設計変更の影響の大きさ

 

設計変更は、波紋のように構造・システム全体に影響を及ぼします。その波は、あるところでは収束したり思わぬところで発振したりと影響は様々です。まずは“良くも悪くも全ての影響を把握する”こと。そして、その中から、設計上都合の悪いもの(副作用)を判別し対策をする。実際に設計を行う際は、こういう思考プロセスが大切です。下記にざっくりとした例を示します。

 

設計変更の作用と副作用

 

(1)設計変更を検討する。

(2)その設計変更がもたらす”作用”を書き出す。(良し悪し問わず)

(3)不都合な”作用”がないか検討する。

(4)不都合あれば、設計変更見直し。(1)へ

 

(工学の世界では、作用・副作用という言葉はあまり使いませんが、ここでは例に則った説明のため使用しています。)

 

(2),(3)のプロセスには、FMEA(Failure Mode and Effect Analysis)が有効です。FMEAは故障や不具合の未然防止を目的とした分析手法の一つです。決められたプロセスに沿って故障モードを推定し、設計の失敗を軽減させるものです。FMEAだけで一冊の本が書けるくらい奥深い分野なので、詳しい説明は省略しますが、設計者であればしっかり学ぶべき分野です。既に構造が成り立っており、設計変更部分のみに着目するのであればDRBFM(Design Review Based on Failure Mode)という手法もあります。

 

よくタイムトラベルをテーマにした映画などで、バタフライエフェクトという言葉が出てきますね。”小さな事象が因果関係の末に大きな結果につながる”という意味で使用されていますが、設計変更に関しても同じようなことが起こりえるわけです。違いがあるとすれば、バタフライエフェクトは結果が全く推測できないカオスなものですが、設計変更は結果が推測可能であるということです。

 

話がそれましたが、設計変更はその大小に関わらず、必ずその構造・システムに影響をもたらします。それ故に、設計変更は安易に行わず、きちっとしたプロセスを得て慎重に行われる必要がある。色々と回りくどく書きましたが、本記事で言いたかったのはそういうことです。

 

柱に掛かった力を計算してみよう(おまけ)

おまけです。失敗学とは反れますが、大理石の円柱の例で中央に支えを追加した場合、従来の保管方法と比べてどの程度条件が不利になるでしょうか。実際に簡易計算してみましょう。

 

二つの事例は、材料力学の単純梁で考えることができます。それぞれの条件を“単純梁”“はね出し単純梁”に置き換えて考えます。

 

 

単純梁とはね出し単純梁

 

 

円柱の大きさなどはわからないので、適当に下記の条件を与えて計算します。

(計算過程は省略します)

 

【計算条件】

◎円柱の直径 500[mm]

◎円柱の全長    3000[mm]

◎大理石の密度   2700[kg/m3

◎端から中央の枕木までの距離  1600[mm]

 

【計算結果】

単純梁の場合(変更前)

◎最大せん断応力 39.7 [kN/m2]

◎最大曲げ応力       477  [kN/m2]

 

つき出し単純梁の場合 (変更後)

◎最大せん断応力     74.5 [kN/m2]

◎最大曲げ応力          7.5 [kN/m2]

 

単純な応力値の比較をすると、従来の両端支持の方が条件が悪いですね(てっきり圧倒的に変更後の方が条件が悪いと思っていたので意外でした)。当時、使用されていた円柱の大きさがわからないとなんともいえませんが、枕木を中央に追加したことで

 

・最大応力が曲げ応力からせん断応力に変化したこと。

・中央に局所的な荷重が負荷されるようになったこと。

 

これが、大理石の円柱が折れる原因になったのだと推測できます。

 

普段の業務では建材は取り扱うことがなく、分野外なので条件を詰めた細かい計算はやめておきます(計算を間違えそうなので)。材料力学に則ったざっくりした計算していませんが、それでも計算をすることで現象の雰囲気は掴むことができますね。

 

ちなみに大理石のせん断強さの物性を調べましたが、情報ありませんでした。これってどういうことなんですかね。測定できないってことですかね?

 

余談ですが、最近、仕事でコンクリート屋さんに行ってコンクリートの強度試験やJIS規格の話を聞く機会がありました。やはり建材は鋼材では考え方が違う部分が多いですね、同じように取り扱ってしまったら駄目だということがよくわかり、勉強になりました。分野外のものを扱うときは、しっかり勉強する必要がありますね。

まとめ

私の上司が良く口にする言葉があります。

 

「不具合は変更した部分からしか起こらない」

 

個人的にはあまり好きな言葉ではありませんが、その通りだとは思います。機械設計の仕事では、全く新しい形を一から作り上げるということは、実は少ないです。既存の実績ある形を流用したり、依存の形を都合の良い形に少しだけ変更して使うことがほとんどです。不具合が起こるときは、そのほとんどが前任設計者の意図とは違う方向に設計変更してしまった場合です。

 

設計変更は設計者の永遠の課題ですね。突き詰めていけば、ミスや不具合を無くすだけでなく、過去の財産(ノウハウや技術)を有効に活用するためにも役立ちます。設計に限らず、何かを変えるということはエネルギーがいることなんだと思いますね。

 

設計変更は安易に行わず、きちっとしたプロセスを得て慎重に行われる必要がある。

 

しつこいようですが、本記事で伝えたいことはこれに尽きます。設計変更を行うとき、あなたはどのようなに行っていますか。今一度、そのプロセスをしっかり見直してみてはいかがでしょうか。この記事がそのきっかけになれば幸いです。