話題の新材料ATHIUM(アシウム)を考察しよう!!

材料

技術の進歩とはいったい何か?

そう問われた時、それは材料の進歩だと言っても過言ではありません。機械に使われる特殊な金属材料、高強度・軽量を合わせ持つコンポジット材料、電子機器に使われる半導体などなど・・日夜、研究は進み、次々に新しい材料が生み出されています。そんな中、昨年、工作機械メーカーである牧野フライス製作所が工作機械の構造体用の新材料を開発したと発表しました。その名もATHIUM(アシウム)。まだほとんど情報がありませんが、現在発表されている情報を元に、この新材料について色々と考察していきたいと思います。では、早速いきましょう!!

ATHIUM(アシウム)って何?

ATHIUM(アシウム)は、工作機械の構造体用に開発された新材料で、昨年の年末に正式に発表されました。

新素材 ATHIUM | Makino

大手工作機械メーカとして有名な牧野フライス製作所を中心に、日之出ホールディングス株式会社、日之出水道機器株式会社、株式会社田島軽金属の4社にて共同開発された材料です。材料の名前であるATHIUM(アシウム)はAlliance(同盟)、Tajima(田島)、HInode(日之出)、Unite(団結)、Makino(牧野)の頭文字をとって命名されたものです。

ATHIUM(アシウム)がどんな材料かというと、ざっくり言えばアルミ鋳物です。当然、ただのアルミ鋳物ではありません。アルミ鋳物でありながら、ねずみ鋳鉄と同等のヤング率を持っているという特殊な材料なんです。軽量、高剛性という2つの相反する物性を合わせ持つ夢のような鋳物材料というわけです。

画像引用:牧野フライス製作所

工作機械の構造体は、通常は”ねずみ鋳鉄”という材料が使われます。ねずみ鋳鉄は鋳物に使われる材料としては最もポピュラーで、比較的安価であり耐摩耗性や加工性ともに良好な材料です。そして、振動の吸収性(減衰性)が高いため、工作機械と非常に相性が良く、ほとんどの工作機械でねずみ鋳鉄が使用されています。

ATHIUM(アシウム)はそのねずみ鋳鉄と同等の剛性を持つので、既存の材料とそのままおきかえることができます。それにより、約60%もの軽量化が可能となります。従来の構造体の重量が半分以下になる・・・これはとんでもないことです。革命といっても過言ではありません。そして牧野フライスの工作機械には適時、この新材料が展開されていくとのことです。工作機械業界に新しい風が吹き荒れるか・・・

いやいやいや、ちょっと待ってくださいよ。
なんか良いことばっかり言ってませんか?


このATHIUM(アシウム)という材料、とんでもなくすごいと思います。それは間違いありません。しかし、工作機械設計者である私の目から見るに、材料として心配な点がちらほらあります。ここからは、与えられた情報のみでATHIUM(アシウム)の凄さを考察するとともに、そのメリットとデメリットも私なりに洗い出していきますよ。あくまでも私の個人的な考察なので、鵜呑みにせず、工作機械オタクの妄想だと思って読んでいただければ幸いです。

ATHIUM(アシウム)の凄さ

ATHIUM(アシウム)の凄さは何と言っても、その剛性の高さにあります。

材料の強さを表す指標には、”強度””剛性”があります。強度とは、材料を破壊に対する強さのことで材料の引張強さです。剛性とは材料の変形に対する強さのことで、ヤング率という指標で表されます。

簡単にまとめると

・剛性が高い材料とは、強い力を受けても変形しにくい材料
・強度が高い材料とは、強い力を受けても破断しにくい材料

ということですね。ATHIUM(アシウム)はその前者である“変形しにくい材料”であると言えます。この点が非常に重要なポイントです。

一般的に合金というのは、強度が高くなるものなんです。逆に剛性の指標であるヤング率は、どんな合金であっても基本的にはそのベース材料に依存しており、変化しません。例えば、アルミ合金の代表格であるジュラルミンや超超ジュラルミンは強度こそ炭素鋼相当ですが、ヤング率はほとんど純粋なアルミと変わりません。

実はこのヤング率の改善こそ、アルミ材料が長年課題としていることなんです。アシウムはまさにその課題にメスを入れた新材料といえます。そして、工作機械に使用する材料は、このヤング率が最も重要です。

その理由を説明するために、まずは一般的な設計論について軽く説明します。機械の設計手法には大きく分けて、“応力基準設計““変位基準設計“があります。


応力基準設計とは、機械に力が掛かった時の最大応力がその材料の許容応力以下になるように設計する手法です。つまり、機械が壊れないように設計しましょうね、という設計です。

変位基準設計とは、機械に力が掛かった時の最大変位が設定した許容値を超えないように設計する手法です。つまり、機械がなるべく変形しないように設計しましょうね、という設計です。

工作機械は、切削加工時に刃物から切削反力という力を受けます。この力に対して、変形を許してしまうと精度の良い加工ができず、工作機械として成り立たなくなってしまいます。故に工作機械の設計は、切削反力に対する変位基準設計が行われます。

工作機械の設計が難しいと言われる理由はここにあります。変位基準設計は、応力基準設計に比べて検討する項目が多く、ノウハウも必要なため設計自体が複雑になります。少し話はそれましたが、それだけ工作機械にとって変位は重要なファクターであり、それに伴い材料のヤング率も同じくらいに重要だということです。

変位を小さくしたいなら、構造体をゴツく設計すれば?

という話もありますが、今度は重量も問題がでてきます。工作機械は精度よく、そして速く加工することが永遠の課題です。構造体をゴツく作れば、それだけ重量が重くなり、機械の動作速度が落ちます。

故に、軽くて剛性が高い材料が必要だったのです。錬金術師が賢者の石を追い求めたように、工作機械の設計者も軽量・高剛性の夢の材料を追い求め続けていたわけです。そして、そこに現れたのがこのATHIUM(アシウム)です。ここまで言えば、この材料がどれだけのインパクトがあるかわかると思います。

ただし、このATHIUM(アシウム)という材料が超斬新で革新的な大発明かといえば、実はそんなことはありません。ここまで持ち上げておいてなんですが、高剛性のアルミ鋳物材料は、結構前から存在はしています。例えば、日本ファインセラミクス社が出しているアルミとセラミックスの複合材料などが代表例ですね。

アルミ/SiC複合材料(鋳造法) - 日本ファインセラミックス

ATHIUM(アシウム)が何の合金であるかは、発表されていませんが、私は上記のようなアルミに非金属系の材料を混ぜ合わせた特殊合金であると考えています。既存の技術をベースにして工作機械で使いやすいようにチューニングした材料が、アシウムなんじゃないかな?あくまでも、素人目線の予想ですけどね。

さて、ここからはこのATHIUM(アシウム)を採用することによって考えられるメリット・デメリットを見ていきましょう!!

ATHIUM(アシウム)のメリット

ATHIUM(アシウム)を利用する最大のメリットは軽量化にあります。アシウムを採用することで、機械剛性を同等に保ったまま、構造体の重量を60%削減できます。それによって受ける具体的な恩恵は二つです。

省エネ性

これは直観的にもわかると思いますが、動かすものの重量が軽くなればそれだけ必要なエネルギーが減ります。

牧野フライスのプレスリリースの発表によれば、環境負荷は45%削減とのことです。なんだかすごく良さそうな感じですが、具体的な消費電力等で表記されているわけではないため、効果の程は良くわかりません。物理的に軽くなるため、改善されるのは間違いないでしょう。

環境負荷45%削減
-移動物イナーシャ40%削減
-ボールねじ・カップリングイナーシャ50%削減
-モータイナーシャ55%削減
-ピーク電流45%削減

プレスリリースにはこう書いてありますが、なんか凄そうというだけで具体的なことはほとんどわかりませんね。この“イナーシャ“という言葉については、次項で軽く解説します。

近年はSGDsという言葉が話題になっているように、どの機械メーカでも環境に対する取り組みが活発になってきました。軽量化や低摩擦化による機械の高効率化の流れは、今後も注目されていくでしょう。

高生産性

これも直観的にもわかると思いますが、動かすものの重量が軽くなればそれだけ速く動かすことができます。機械が速く動けば、同じ時間でもより多くの加工を行うことができます。つまり、生産性が高まるというわけです。ここで言う”速さ”とは最高速度のことではなく、”加速度”のことです。

そもそも工作機械の速さとは何かというと、軸送りのスピードのことです。削りたいワークに対して、主軸がどれだけ速く動けるかがポイントとなります。速さの指標としては、主に最高速度加速度がありますが、よほど大型の機械でない限りは加速度の方が重視されます。

工作機械の稼働軸は、長い距離を一定速度で動くという動作はほとんどありません。常に細かい加減速を繰り返しながら、複雑な動きをしています。わかりやすく人間に例えるなら、50m走や100m走ではなく常に反復横跳びしてる感じです。そうイメージしてもらえば、加速度の方が大切そうだなーとわかると思います。

では、加速度を上げるためにはどうすれば良いのでしょうか。結論から言えば、イナーシャを小さくすることが重要です。イナーシャとは慣性のことです。そして慣性とは、物体が今の運動状態を保とうとする性質のことです。簡単にいえば、物体は止まっていたら動きたくないし、動いていたら止まりたくないわけです。イナーシャが大きいと、物体が今の運動状態を保とうとする性質がより強く働くため、加速・減速させるためには大きな力が必要になります。

工作機械の駆動系にはボールねじという機械要素が用いられます。ボールねじ駆動の場合、イナーシャは回転体イナーシャ移動物イナーシャに分けることができます。回転体イナーシャは、ボールねじ自体の慣性であり、ボールねじが長いほど大きくなります。移動物イナーシャは、ボールねじを使って移動させる対象物の慣性であり、移動物が重いほど大きくなります。イナーシャの大きさ的に支配的なのはこの移動物イナーシャです。

画像引用:日本精工株式会社

細かい数式の説明は省略しますが、移動物イナーシャの大きさは移動物の重量に比例して大きくなり、駆動系の減速比の二乗に反比例します。つまり、イナーシャを小さくするには移動物の質量を小さくするか、減速機を使って減速させれば良いわけです。しかし、工作機械の駆動系では、減速機を噛ませることはほとんどせず、多くの場合がボールねじとサーボモータの直結です。

減速機を噛ませた時に発生する遊び(バックラッシ)などで機械の位置決め精度が低下することを嫌ってこういった構造になっています。ちなみに海外では普通に減速機を使って、バックラッシ分は制御措置で補正するのが一般的です。なるべく補正に頼らず機械の素性を大切にする文化が日本には根付いているので、日本は”直結”文化なんです。

そのあたりの話は下記の記事にまとめていますので、興味あればご一読ください。


まとめると、工作機械は加減速が大切で、そのためにはイナーシャを小さくする必要がある。そして、イナーシャを小さくするためには、移動物の重量を軽くする必要がある、ということです。

プレスリリースによると、ATHIUM(アシウム)を使用することで機械の生産性が85%向上するらしいですよ。これは、どんな加工を行うかによって、大きく異なるとは思いますが85%向上とは、結構大きく出たなーという印象です。正直、ちょっと盛りすぎじゃないかな?とも思いますね。

ATHIUM(アシウム)のデメリット

ATHIUM(アシウム)のデメリットを考察していきましょう。私が現時点で思いつくのは、2つです。

高コストかも!?

ATHIUM(アシウム)が非金属系の特殊材料を用いたアルミ合金であるならば、コストは通常のねずみ鋳鉄に比べて、数倍以上に跳ね上がるでしょう。そのあたりは、4社共同開発でかなり良い線まで詰めているとは思いますが、それでもねずみ鋳鉄よりも安価になることはまずあり得ないと思います。大幅なコストアップは避けられません。

それを補って余りあるほどの機械性能アップが可能なら良いですが、機械の高速化だけでの生産性向上には限界があります。費用対効果として割に合うかどうかは正直わかりませんね。”重い機械=剛性の高い良い機械”と考えるお客さんも多いので、軽くなったんなら安くなったんでしょ?とイメージする人も多いと思います。もしATHIUM(アシウム)の採用で機械の値段が上がるようなら、市場には受け入れられない可能性があります。

熱変位の制御が難しいかも!?

温度変化に対する材料の変位の度合を表すのが“線膨張係数”です。ATHIUM(アシウム)の線膨張係数は、恐らくねずみ鋳鉄相当に抑えることが可能だと思います。しかし、どうしても変えられない物性が”熱伝達率”です。アルミ特有の熱伝達率の高さを調整する術は、おそらくないだろうと考えます。

つまり、ATHIUM(アシウム)はアルミと同様に“熱されやすく冷めやすい“材料でしょう。そして、もしATHIUM(アシウム)を使って工作機械を作るなら、軽量化目的で可動部にはアシウムを使いますが、ベースなどの動かない部分には従来のねずみ鋳鉄を使うはずです。そうなると一台の機械に、ねずみ鋳鉄の部分とATHIUM(アシウム)の部分が混在することになりますよね。

この状態、工作機械設計者の目線から見るとなかなか厄介だと思います。懸念すべきは、機械の温度変化に対する熱変位です。

金属に限らず、あらゆる材料は温度が上がれば寸法が大きくなり、温度が下がれば寸法が小さくなります。目に見えないほどの微妙な変化ではありますが、精密な動作を要求される工作機械は、こういった温度による構造体の寸法の変化も考慮しなければなりません。

機械の温度変化による主軸位置のズレを、熱変位と呼びます。工作機械の永遠のテーマの一つがこの熱変位であり、どのように熱変位の対策をするかは各社のノウハウとなっています。熱変位自体を抑えることは困難なので、熱変位することを前提として、補正で対応するのが一般的です。機械の各箇所に温度センサを取り付けて、変位量を逆算してズレた分をリアルタイムで補正します。

ATHIUM(アシウム)を使用した機械では、ATHIUM(アシウム)を使用した箇所だけ温度変化が早くなります。例えば、工場の室温が変化した場合、ねずみ鋳鉄だけを使用した工作機械では、時間に比例するように熱変位を起こします。しかし、ATHIUM(アシウム)とねずみ鋳鉄を併用した機械では、まずATHIUM(アシウム)の温度が一気に変化して、その後を追うように鋳鉄の温度が変化するため、非常に複雑な熱変位を起こす可能性が高いです。

この熱変位に対して、補正で対応しようとするとかなり複雑な予想式を用意する必要があるため技術的なハードルが上がります。不可能ではないと思いますが、かなり大変だと思いますね。

まとめ

本記事の内容を復習しましょう。

・ATHIUM(アシウム)は、工作機械の構造体用に開発された新材料
・牧野フライスを中心とした4社で開発された
・従来の鋳物より約60%軽く、かつ同等の剛性を持つ
・採用することで機械の高速化、省エネ化が期待できる
・コストが高いのが課題になりそう・・・かも?
・熱変位の対策が難しい・・・かも?


冒頭でも書きましたが、本記事はあくまでも私の個人的な考察です。信じるか信じないかはあなた次第・・・都市伝説レベルの話だと思ってください。しかし、ATHIUM(アシウム)という材料が開発されて今後、牧野フライスの工作機械に採用されていくというのは本当の話です。

工作機械業界全体の流れとしては、“工作機械単体を売る”のではなく、“生産システム全体を提案し、売る”という流れにシフトしつつまります。注目されるのは、IoTやAiなどのシステムやIT関連の技術が多く、工作機械本体としての新しい機能や技術というのは正直、下火気味なんです。機械設計者としては少し寂しくもありますが、これは仕方のないことです。ただ、そんななかでの新材料の開発というビックニュース。これは機械本体の根本を変えるような発明であり、とてもワクワクしますね。どのような機種に採用されて、今後どう展開していくのか、工作機械業界にどんな影響を与えるのか・・・非常に楽しみです!!

工作機械の材料には、鋳物の他にもミネラルキャスティングという特殊な材料が使用されることもあります。このミネラルキャスティングも技術的に面白い材料です。過去の記事で紹介していますので、興味のある方は是非ともご一読ください。

タイトルとURLをコピーしました