誰でもわかる”材料物性”の基礎の基礎

"誰でもわかる"シリーズ

鉄、アルミ、ステンレス、プラスチック・・・などなど、日常生活でよく耳にするこれらの言葉は材料の種類を表す言葉です。今、あなたの一番近くにあるモノを手に取って見てみてください。スマホだったり、パソコンのマウスだったり、はたまたコーヒーの入ったマグカップかもしれません。さて、それは一体、なんという材料でできているでしょうか?あなたが今まさに触っている、”ソレ”は何という材料なのでしょうか。この問いに、スパッと答えられる人は少ないでしょう。材料はそれだけ身近であるにもかかわらず、あまり気にされないものです。

私の妻も金属は総じて”鉄”と呼び、樹脂は総じて”プラスチック”と呼びます。それはいささか極端な例だとしても、材料に意識を向けるのはとても大切なことです。なぜなら、技術の進歩の源流にあるのはいつも”材料”だからです。新しい材料が生み出され、そしてその材料を利用した新しい技術が生み出されるわけです。だったら、材料の事を勉強しなくて良いはずがありませんよね。

ただ正直な話、材料分野の学問をしっかり学ぼうとおもったら結構大変です。材料分野の学問は非常に難しい。原子、分子、結晶構造・・・目に見えない分野の話がたくさん出てくるので、直感的にわかりにくいんですよね。本記事では、そういった小難しい話は一切抜きにして、料を学ぶ上で押さえておくべき項目をまとめました。誰にでもわかりやすく解説しますので、気軽に読んでみてください。

今回は、あえて具体的な材料の話はしません。材料の性質を表す“材料物性”にフォーカスして説明します。材料物性を体系的に学びましょう。では、さっそくいきましょう!!

物性って何だ?

物性(ぶっせい)とは、物質の示す性質のことです。すごく簡単にいえば、その材料がどんな特徴をもっているのかを表す指標です。物性を人に例えて説明するなら、体重、身長、年収、ルックス、性格・・・etc みたいな指標の事ですね。それらの項目がその人が全てではないにしても、それを知ることでその人が”どんな人なのか”が何となくわかりますよね。そのように、材料物性を知れば、その材料の何がどう優れていて、何がどう劣っているのかはすぐに理解できるわけです。故に、材料を理解するためには、まず最初にどういう材料物性があるのか、それはどういった意味なのか、ということをしっかり理解することが大切なわけです。

材料物性には、大きく分けて機械的物性、物理的物性、化学的的物性があります。

機械的物性・・・外部から掛かる力に対する性質
物理的物性・・・材料が持つ物理的な性質
化学的物性・・・化学変化や反応に対する性質

では、材料物性の具体的な話に進みましょう。

機械的物性

機械的物性には、剛性、強度、硬さ、粘り強さ などがあります。一見すると、どれも同じような意味に見えますが、それぞれ示す性質が異なります。それぞれの機械的物性がどういった意味をもっているのか、そのイメージをざっくり掴みましょう!!

剛性

剛性とは、材料の変形しにくさを表す物性です。どんな材料であっても、力をかければ必ず変形します。どんなに強固に見える金属であっても、それは同じです。そして、材料によって、同じ力をかけても変形する量が異なります。剛性の高い材料ほど、変形しにくく、剛性の低い材料ほど大きく変形するというわけです。

力をかけるのを止めれば、材料は元の形に戻ります。バネのような変形をイメージしてもらうとわかりやすいでしょう。このように力を取り除けば元に戻るような変形は弾性変形と呼ばれます。材料の剛性を表す値としては、ヤング率という値が使用されます。ヤング率が大きければ、大きいほど剛性が高い、つまり変形しにくい材料ということになります。

一般的には、剛性が高く変形量の少ない材料が使いやすく良い材料とされます。用途によっては、あえて変形量の大きい材料を使って、力をいなすなんていう高度な設計もありますけどね。

強度

強度とは、材料の壊れにくさを表す物性です。材料が壊れるとは、簡単にいえば“元に戻らない変形をすること”です。先ほど説明した”剛性”は、力を取り除いたら元に戻る弾性変形の話ですが、そこから更に力を大きくしていくと元に戻らない”取り返しのつかない領域”に突入していきます。

元に戻らない変形とは、具体的には2つあります。

・塑性変形 ・・・ 変形して元の形に戻らなくなる。
・破断  ・・・  材料が破断してしまう

ここまでの力だったらギリギリ元に戻るよ、という力を降伏点
これまでの力ならギリギリ破断しないよ、という力を引張強さ

と呼びます。降伏点、引張強さをひっくるめて、”強度”と呼びます。強度にはそういった二つの概念があるわけです。

強度を表すのに用いられるグラフが応力-ひずみ曲線と呼ばれるものです。本記事では詳細な説明は省きますが、縦軸が加える力、横軸が変形だとイメージしてもらえれば良いです。(厳密な説明ではありません。詳しく知りたい方は”応力ひずみ曲線”でググって正しく勉強してね)

降伏点までの直線が弾性変形の領域で、この範囲までの力で使用すれば、材料は元の形に戻ります。降伏点を超えると、塑性変形を起こし元に戻らなくなります。更に力を加えていくと破断となるわけです。

上記の応力ひずみ曲線は、典型的な鉄のもので、全ての材料が同じような傾向を示すわけではありません。ここ重要ですよ。降伏点が明確に曲線上に表れない材料があるんです。そういう材料は降伏点の代わりに“耐力”と表記されます。耐力は降伏点と同じ意味だと思って問題ありません。

硬さと粘り強さ

この”硬さ”という概念がなかなか厄介で、材料物性のわかりにくいところでもあります。硬さとは、材料の傷つきにくさです。もう少しツッコんで説明するなら、材料表面に局所的な力が加わった時の抵抗の強さを示す指標といえます。日常生活では硬い=強いみたいなイメージがありますが、そういうイメージとは切り離して考えなければなりません。

硬い材料は、鋭いものでひっかいたりしても簡単には傷つきません。先ほど説明した剛性や強度と硬さは別の概念なんです。実は、硬さの概念を明確に定義することはとても難しいんです。そもそも硬いってなんだろう?って考えたことありますか。説明するの難しくないですか?硬さは完全に理解するのは非常に困難なので、ここでは硬さ=表面の傷つきにくさだと思えばよいです。

硬さと密接な関係のある物性に、粘り強さがあります。これもまた曖昧な表現ですが、粘り強さとは一言でいえば“衝撃に対する壊れにくさ”です。強度と何が違うんだという話ですが、強度の場合は静的な力に対する壊れにくさです。つまり、ゆっくりじっくりかかる時間変化のない力に対する壊れにくさが強度なんです。一方、粘り強さは急激な力の変化、つまり衝撃に対する壊れにくさを表す物性です。

粘り強さと硬さは相反する概念で、硬い材料は衝撃に弱く脆くなります。ガラスなどをイメージするとわかりやすいですが、ガラスは非常に硬いですが叩けば割れてしまいます。コンクリートなども同じです。こういった硬いけど脆いという特性を”脆性(ぜいせい)”と呼んだりします。逆に粘り強く、衝撃に強い特性は”靭性(じんせい)”と呼ばれます。余談ですが、高校の時の先生は「じんせい(人生/靭性)は粘り強く」と覚えろって言ってましたね。

物理的物性

物理的物性には、密度、磁性、導電率、熱伝達率、線膨張係数などがあります。磁石、電気、熱などの物理的な影響に対する特性が物理的物性です。イメージを掴んでいきましょう!!

密度

密度とは重さを表す物性です。中学校の理解で習うと思うので、他の項目と比較すると馴染み深い物性だと思います。密度の定義は、単位体積当たりの質量です。例えば水の密度は、1000[kg/m^3]です。これは一辺1mの立方体の水の塊りがあったらそれは1000kgだよってことです。ちなみに鉄の密度は、7874[kg/m^3]で、アルミの密度は2700[kg/m^3]です。これは同じ大きさなら鉄よりアルミの方が約1/3くらいの重さになるということですね。このようの材料の重さを比較できるのが、密度です。ちなみに、材料の密度を水の密度をで割った値を比重と呼びます。1以上なら水より重く、1以下なら水より軽いということです。1以下の材料は水に浮きます。

余談ですが、世界で最も密度の大きい物質はクオークグルーオンプラズマ(QGP)という物質らしいです。超特殊な重イオン衝突装置で一瞬だけ発生させることができる超特殊な物質で、サイコロサイズで400億トンの重さがあるんだとか。さすがに重すぎ・・・。

磁性

磁性は、磁石にくっつくかどうかという物性です。磁石がくっつくものを磁性体、くっつかないものを非磁性体と呼びます。金属なら何でも磁石がくっつくというわけではありません。磁性をもっているのは、鉄、コバルト、ニッケルの3種類の金属のみです。

磁性の話も、ツッコんで理解しようと思うとかなり難しいですよね。とりあえず磁性を持っている金属は、上記の三種類だということを覚えておけば役に立つと思います。

ただし、実際の材料においてはいろいろな金属を混ぜ合わせた”合金”という形で使われることが多いです。そのため、材料に磁石がくっつくかどうかはその合金の配分次第となります。身近な例でいえば、ステンレスという材料があります。台所のシンクなどによく使われる錆びない金属ですね。これは鉄とクロームやニッケルといった金属を混ぜ合わせた合金です。

同じステンレスという括りの中でも、SUS300番台といわれる鉄、クローム、ニッケルの合金は非磁性体で、SUS400番台といわれる鉄とクロームの合金は磁性体です。SUS400番台は比較的安価なステンレスなので、「磁石がくっつくステンレスは安物だ」なんて言われたりもします。同じ材料の名前でも磁性を持つものと持たないものがあるということを覚えておきましょう。

導電率

導電率は、電気の流れやすさを表す物性です。逆に電気の流れにくさを表す言葉で”抵抗”という言葉もあります。機械などを設計する上ではそこまで重要な物性ではないため、あまり気にされないことが多いです。代表的な金属と導電性を表にまとめました。

私はてっきり、金が最も導電性が良いのかと思っていましたが銀なんですね。電線などではコスト面も鑑みて、銅が広く使用されます。

熱伝導率

熱伝導率は、物体中の熱の伝えやすさを表す物性です。値が大きいほど熱が伝わりやすいということになります。製品の用途次第では、熱が早く伝わった方がいい場合もあるし、そうでない場合もあります。

鍋などの調理機器では、熱の回りが早いことが重要なので熱伝導率の高い材料が使われたりします。逆に、熱を逃がさないことを目的としたポッドなどは熱伝導率の低い材料を使うことで熱が逃げるスピードを和らげています。

機械の分野では、冷却に用いるヒートシンクなどはアルミ製などの熱伝導率の高い材料が使用されて効率良く熱を逃がすような工夫がされています。また、似た概念で”熱伝達”という言葉がありますが、熱伝導と熱伝達は別の概念なので混同しないように注意しましょう。一つの物体中の熱の伝わり方を表す熱伝導に対して、熱伝達は別々な2つの物質の間で、熱が伝わっていく現象を指します。

線膨張係数

線膨張係数は、熱による寸法の変化量を表す物性です。材料は熱が加わると寸法が変化します。基本的には温度が高くなると、大きくなり、低くなると小さくなります。温度に対する変形の度合は、線膨張係数の大きさで表され、数字が大きい材料ほど熱が加わったとき、大きく寸法が変化します。

鉄の変化量は、1℃、1m、10μm と覚えろと良く言われます。1mの長さの鉄が、1℃温度変化すると、寸法は10μm(0.01mm)変わるということです。この熱による寸法変化は様々な機械の天敵です。特に精密機械などでは、この寸法変化により機械の精度が大幅に狂ってしまうため、どの会社も如何にして発熱を抑えるか、効率よく冷却するのか、変形した後に精度を保つか・・・など、様々な取り組みがなされています。

化学的物性

化学的物性には、耐食性、耐候性、耐光性などがあります。本記事では、金属材料で重視される耐食性のみをピックアップして紹介します。

耐食性

耐食性は材料の錆びにくさを表す物性です。錆とは、一言でいうなら“酸化”です。酸素と結びつき反応することで、錆びが発生して朽ち果てていきます。耐食性を持つ材料は、錆びないということではなく、朽ち果てないといった方が厳密です。

耐食性が高い材料の代表としては、アルミやステンレスがあります。これらの材料は、錆びないわけではなく、実は既に錆びているから錆びようがないという感じなんです。アルミやステンレスは、表面に酸化膜という膜を形成する特性があります。これは透明な膜なのですが、酸化しているという点ではれっきとした錆びです。その酸化膜で覆われているため、皆さんが想像するようなオレンジ色のあの錆びが発生しないのです。その他、金やプラチナも耐食性の高い材料として有名です。これらの材料は、酸素との化学的な反応を起こさないほど分子構造が安定しているため、錆びません。

このように耐食性と一口に言っても、その錆びない仕組みは材料ごとに違います。材料が錆びにくいかどうかだけでなく、なんで錆びにくいのかまで調べると良いかもしれませんね。

まとめ

本記事を復習しましょう。

・物性とは、物質の示す性質のこと。
・物性には、機械的性質、物理的性質、化学的性質の3つがある
・機械的性質には、剛性、強度、硬さ、粘り強さ、などがある。
・物理的性質には、密度、磁性、導電性、熱伝達、熱変位、などがある。
・化学的性質には、耐食性、などがある。


本記事では、物性の中でも一般的に知っておくべきものをピックアップしてまとめました。ここに書いてある物性が全てではなく、まだまだ多くの項目があります。そこは誤解がないようお願いします。今回は金属材料に対する物性をメインにまとめましたが、樹脂材料でいうなら光や気候に対する耐候性や耐光性も重要な物性です。このように材料分野は例を挙げればキリがない、非常に奥深い分野なのです。

私は、大学では材料系の研究室にいましたので、材料系の学問の小難しさとややこしさは理解しているつもりです。ぶっちゃけ苦手でしたし・・・。また、学問で学ぶ材料学と機械設計などの実務で必要となる材料の知識には大きな乖離があることも実感しています。

しかし、冒頭でも伝えたように材料の進化が技術の進化に直結するのもまた事実です。本記事で、少しでも材料に対する理解や興味が深まれば幸いです。今回は、材料物性にフォーカスしましたが次回は設計実務での実用も考えた、具体的な材料の話をしたいと思います。お楽しみに!!

本記事を書く上で、参考にした書籍を紹介します。”加工材料の知識がやさしくわかる本”です。タイトルの通り、かなり優しく材料のことが解説されているのでとっつくやすくてオススメです。学術的というよりも実務寄りの内容なので、「機械設計初心者」や「復習がてらもう一度材料の事を学びたい人」にはうってつけですよ。機会があれば手に取ってみてください。

created by Rinker
¥2,420 (2021/04/19 00:13:12時点 Amazon調べ-詳細)

タイトルとURLをコピーしました