合金・・・・男の子であればこの響きだけでワクワクすること間違いなし。玩具の影響もあってか、合金=ロボットみたいなイメージを持っている人も多いと思います。私もいまだに、合金と聞いた瞬間に思い浮かぶのは、家にあったマジンガーZの超合金シリーズという玩具です。そんな男のロマンの詰まったこの“合金“というこの言葉ですか・・・・真面目な話をすればロボットとはあまり関係ありません。(全く関係ないということもないのですが)
男のロマンの話は一旦置いておいて、合金って一体何なのか?ということを本記事で正しく学びましょう。できるだけ優しく、誰にでもわかるよう解説してきますよ!!
本記事を読む前に下記の記事を読むとより理解が深まるはずです。もしお時間あればご一読ください。
合金鋼ってなに?
合金とはその名の通り、異種の金属同士を合わせてできた金属です。二種類以上の金属を混ぜ合わせてできた物質が合金と呼ばれます。ドラゴンボールに例えるなら、金属同士のフュージョンだと言えますね。
鉄、アルミ、銅・・・様々な金属があり、その組み合わせもほぼ無限大だと言えます。お互いの良さを生かし合えるような究極の配合を求めて、日夜研究が行われているわけです。全ての合金についてまとめようと思うとかなりの量があります。なので、本記事では実務で使う頻度の多い鉄系の合金“合金鋼“にフォーカスしてまとめていきますよ。
まず、どういうものを合金鋼と呼ぶのかという定義をはっきりさせましょう。
合金鋼の元となるのは、"鉄"です。鉄は金属材料の中でも最もメジャーな材料です。しかし、鉄が鉄のまま使われることはほぼありません。なぜなら純粋な鉄は柔らかすぎて全く実用に向かないからです。このような純粋な鉄は、“純鉄”と呼ばれます。この純鉄を実用に適した性質に変える為に、様々な処理が行われ、我々が普段目にしている機械の材料へと作り替えらるわけです。
このように性質を変えるための処理が加えられた鉄を“鉄鋼材料“と呼びます。鉄鋼材料は、処理の方法で大きく3種類に分けることができます。
・炭素鋼・・・・炭素を加えることで物性を調整
・合金鋼・・・・他の金属を混ぜ合わせて物性を調整
・鋳鉄・・・・・製鉄の過程で生まれる鋳造用の鉄
“炭素鋼”は、鉄に炭素を加えた鉄鋼材料です。その炭素含有量で物性の調整を行います。一般的に鉄といったら、この“炭素鋼“のことを指すと言ってもよいでしょう。ちなみに、鉄に加える成分は炭素の他にもシリコン(Si)、マンガン(Mn)、リン(P)、硫黄(S)などがあり、炭素(C)を含めてこれらを5大元素と呼びます。
これらの5大元素とは別に、さらにクロム(Cr)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、コバルト(Co)などを混ぜ込んだ鉄鋼材料のことを“合金鋼”と呼びます。5大元素だけでは変化させることのできない性質を他の金属をブレンドすることでうまく変化させるのが合金鋼です。機械的性質、焼入れ性、耐熱性、耐食性、耐摩耗性・・・etc、金属同士の組み合わせによって様々な材料物性を実現することができます。
その反面、価格も高価になるため、実務では炭素鋼で対応出来ない場合に初めて合金鋼を検討することになります。まずは、単体の炭素鋼で勝負というわけです。悟空やベジータが好き好んでフュージョンしないのと同じですね(謎)
合金鋼の種類
合金鋼をざっくり分類すると下記のようになります。
用途別にまとめると、機械構造用、工具鋼用、特種用途の3つに分類することが出来ます。それぞれの用途に対応した炭素鋼もありますが、炭素鋼では物性的に物足りない時に合金鋼を選択することになります。
では、それぞれの合金鋼について一つずつ詳細を見ていきましょう。
ステンレス鋼
材料のことを知らない人でもこの“ステンレス“という言葉は聞いたことあると思います。ステンレス鋼は最も身近に使われている合金鋼と言って良いでしょう。ステンレスは名前から分かる通り、Stain(汚れ・さび)less(~がない)なので“錆びにくい”合金です。
ステンレス鋼は鉄(Fe)とクロム(Cr)、ニッケル(Ni)の合金です。J I S記号ではSUSと表します。SUSはSteel Use Stainlessの略で、実務では“サス“と呼んだり“ステン“と呼んだりします。SUSの後には種類番号と呼ばれる三桁の番号が付きます。
ステンレスが錆びないのは表面に“不動態皮膜“という膜を形成するためです。この膜に守られているためステンレスは錆びることがありません。しかもこの膜は、自己修復機能がついており、万が一傷ついても瞬時に再生するという優れもの。この特性によりステンレスは長期に渡って綺麗な状態を保てるわけです。ステンレス鋼は台所のシンクなどでよく使用されますが、調理や皿洗いなどでシンクがどんなに傷ついても錆びることはありませんよね。これはこの“不動態皮膜“とその再生能力のおかげなんですよ。
ステンレスはクロム(Cr)とニッケル(Ni)の含有量により大きく3つに分けることができます。
18−8系ステンレス・・・Cr18% Ni8%のステンレス 高級品
18Cr系ステンレス・・・Cr18%のステンレス 並級
13Cr系ステンレス・・・Cr13%のステンレス 低価格品
ざっくり分けて三種類ですが、ステンレス鋼の細かい種類で言えば200種類を超えると言われています。一口にステンレスと言っても、いっぱいあるんですよね。その中でも代表的な4つを紹介しますので、サラッと見ておいてください。全部を覚える必要はありませんが、そんな区分けなんだー程度に見ておけばOKです。
●SUS304(18-8系ステンレス)
ステンレスといえば、このSUS304が大半を締めます。読み方は、サス・サンマルヨンです。耐食性はもちろんのこと、耐熱性にも優れており600℃まで使用可能です。ただし、硬くて粘いため加工性はよくありません。
●SUS303(18-8系ステンレス)
上述のSUS304 にリン(P)や硫黄(S)をブレンドして、加工性を向上させたステンレス鋼です。快削ステンレス鋼とも呼ばれます。耐食性はSUS304に若干劣るものの、加工性が非常に良いため機械部品に適しています。
●SUS430(18Cr系ステンレス)
SUS304に次いでよく使われるステンレス鋼です。SUS304より安価ですが、耐食性は劣ります。
●SUS430C(13Cr系ステンレス)
13Cr系のステンレスは焼き入れにより硬くなる特性があり、ステンレス鋼の中では最高の硬度を誇ります。硬くて摩耗にも強いことから包丁などの材料として使われます。価格はステンレスの中では最も安価ですが、耐食性も低いです。
ちなみにSUS300番台(18−8系ステンレス)は磁性がありませんが、SUS400番台(18Cr系、13Cr系ステンレス)には磁性があります。同じ材料なのに、種類によって磁石がくっついたりくっつかなかったりするんです。面白いですね。磁石がくっつくステンレスは安い奴と覚えておくと面白いかもしれませんね。
ちなみにステンレスをステンレスたらしめているのはクロム(Cr)です。クロム(Cr)を13%以上含むと“耐食性“が現れます。ステンレスを名乗るならこの条件は満たさなければなりません。これは覚えておきましょう。
また、ステンレスと言っても絶対に錆びない訳ではありません。錆びにくいだけです。不動態皮膜は塩素に対して弱く、塩素イオンに破壊されてしまうため海などでステンレスを使用すると孔食という腐食が起きてしまいます。また、ステンレスを錆びさせるもう一つの要因として“もらいさび“があります。錆びたものをステンレス上に置いておくと、錆が染るようにして不動態皮膜を超えて、ステンレス鋼そのものを錆びさせます。そうなるとたちまち腐食が進んでしまうので、注意が必要です。
合金工具鋼
工具鋼は硬さと耐摩耗性が特徴の鉄鋼材料です。工具鋼という名前ではありますが、工具にしか使わないということではなく耐摩耗性や硬さが必要な部品に使用されます。炭素工具鋼のSK材では要求を満たせない場合に、この合金工具鋼が使用されます。
合金工具鋼は、J I S記号ではSKS51、SKD11、SKT4、SKH51などと表されます。SKは炭素工具鋼と同じくSteel Kouguの略で、三文字目はそれぞれ用途別にSpecial、Daice、Tanzou、Hi-Speedの頭文字となっています。最後に付く数字は種類番号でJISで定められています。5大元素にクロム(Cr)、タングステン(W)、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)などをブレンドして耐摩耗性や耐熱性を向上させています。合金工具鋼の中で特に有名なのはSKHで、高速度工具鋼鋼材と呼ばれます。ハイスピードスチールの略でハイスとも呼ばれ、耐熱性が非常に高いのが特徴です。600℃まで硬さが変わることがないので、工具材料として使用すると高速加工に向いた有用な工具を作れます。
工具鋼は全般的に硬さと耐摩耗性が特徴なので、加工性は非常に悪いです。まあ、工具として使われるくらいですからね。
機械構造用合金鋼鋼材
機械構造用炭素鋼鋼材(S-C材)では、要求が満たせない場合に機械構造用合金鋼鋼材が使用されます。機械構造用合金鋼鋼材で強化される物性は、材料の強度です。強度とはすなわち"引張強さ"のことです。材料の変形に対する強さである"剛性"は炭素鋼と同じ値です。全てが強くなるわけではないので、その点は勘違いしないようにしましょう。
合金鋼鋼材の最大の利点は、焼入れ性が向上することです。焼入れのしやすさ、また焼入れをした際の物性の向上幅が格段にアップするため、炭素鋼に比べて非常に強い強度を得ることができます。逆にいえば、熱処理をしなければ物性は炭素鋼と同じままなんです。合金鋼鋼材は必ず熱処理をして使用しますので、その点も覚えておきましょう。
機械構造用合金鋼鋼材には
・SCr(クロム鋼鋼材)
・SCM(クロムモリブデン鋼鋼材)
・SNC(ニッケルクロム鋼鋼材)
・SNCM(ニッケルクロムモリブデン鋼鋼材)
などがあります。JIS記号では、これらのアルファベッドの後に3桁の数字がつきます。最初の一桁が元素コード、残りの二桁は炭素量を100倍にした数字です。細かい数字の話は覚えなくても良いですが、上記のアルファベットを見たらパッと金属の組み合わせがわかるようにしましょう。それぞれの元素の頭文字をとっているだけなので、覚えやすいですよね。
ハイテン鋼
高張力鋼とも呼ばれる合金鋼です。炭素鋼にシリコン(Si)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)などを添加することにより、非常に高い引張強さを得ることができます。一般構造用炭素鋼鋼材の S S400は引張強さ400[N/mm^2]なのに対して、ハイテン鋼は800〜1000[N/mm^2]と約2倍以上の引張り強さを誇ります。
強度が2倍であるということは、逆にいえば半分の厚みでも同じ強度が得れるということになるため、車のボディなどに使われ軽量化などにも利用されています。
どのくらいの引張り強さの鋼材をハイテン鋼と定義するかは国ごとに違いますが、日本では490[N/mm^2]以上が一つの基準となっています。また1000[N/mm^2]を超えるものを超高張力鋼と呼びます。なんだか早口言葉みたいですよね、私は噛まずには言えません。
ハイテン鋼は用途別に細分化されているため、ハイテン鋼ならコレという代表的なJIS記号はありません。更には各材料メーカーがオリジナルの材料名で売り出していることも多いので、あまり気にしなくても良いでしょう。日々、新しいハイテン鋼も生まれています。
超硬合金
超硬合金とは、きわめて硬い合金です。最高に男心を擽るネーミングですよね。名前負けせず、ダイヤモンドに次ぐ硬さを誇っています。また、重さは鉄の2倍もあり、金とほぼ同じです。硬いだけでなく、強度や弾性にも優れ、高温時の硬度低下が少なく、磨耗しにくいという特性からドリル、フライス、旋盤など金属加工用の切削工具に使われます。
炭化タングステン、炭化チタン、コバルトなどの金属炭化物の粉末を焼結することで作られます。この超硬合金で工具を作れば、合金工具鋼で作った工具よりもさらに高い条件で加工を行うことができます。ただし、非常に高価であることと粘り強さがないため衝撃でかけてしまうという欠点があります。
工作機械に使われる工具だと、スロアウェイチップと呼ばれる交換用のチップが代表的な例ですね。
まとめ
本記事を復習しましょう。
・合金は異種の金属同士を混ぜ合わせた金属
・合金鋼には、ステンレス鋼、合金工具鋼、機械構造用合金鋼、ハイテン鋼、超硬合金 などがある。
・基本的には炭素鋼で物性が不足している場合に、合金鋼を用いる
・ステンレス鋼は錆びにくい
・合金工具鋼は耐摩耗性に優れる
・機械構造用合金鋼は焼入れ性と焼入れ効果に優れる
・ハイテン鋼は引張強さが強い
・超硬合金は超硬い
一般機械を設計する場合は、基本的には炭素鋼で事足りるため合金鋼を用いることは少ないです。私は約10年ほど機械設計に携わっていますが、合金鋼を使ったのは一度だけです。非常に特殊な用途で高い負荷を受けるシャフトの材料としてSCM材を使用しました。設計する機械にもよりますが、コストを考えるとやはり炭素鋼を使える設計にした方が無難ですね。
ただ材料を選ぶときに、"選択肢として合金鋼のことを知っている"というのは非常に重要です。本記事では概要だけを掴めるよう非常にフワッとした説明をしましたが、それぞれの合金鋼が具体的にどういう用途で使われるのかまで掘り下げて勉強できると良いかと思います。
全くの余談ですが、合金に使われる"超"って良いですよね。超硬合金、超高張力鋼・・・その語感だけ材料の凄さが伝わってきますよね。本記事では取り上げませんでしたが、アルミの合金には超超ジュラルミンなんてものもありますからね。ここまでくると逆によくわかりませんね(笑)
超サイヤ人、超サイヤ人2・・・みたいなもんだと思ってます。ドラゴンボールネタがわからない人はすみませんね。
本記事を書く上で、参考にした書籍を紹介します。”加工材料の知識がやさしくわかる本”です。タイトルの通り、かなり優しく材料のことが解説されているのでとっつくやすくてオススメです。学術的というよりも実務寄りの内容なので、「機械設計初心者」や「復習がてらもう一度材料の事を学びたい人」にはうってつけですよ。機会があれば手に取ってみてください。
材料の基礎知識も下記の記事にまとめてありますので、是非とも合わせてお読みください!!