材料 機械要素技術

実務で役立つ”非鉄金属”の基礎

金属材料の中で最も使われることが多い材料が"鉄"です。世の中にある部品や機械の約90%は鉄で出来ているとも言われています。

金属の世界で鉄はまさにキングオブメタルであり、"鉄にあらずんば、金属にあらず"と言わんばかりに、幅を利かせているわけです。鉄以外の金属達は"非鉄金属"と呼ばれます。金属は「鉄か、鉄以外か」というローランドの生き様のような分類をされているわけです。きっと非鉄金属たちは肩身の狭い思いをしていることでしょう!(妄想)

しかし、非鉄金属を侮ることなかれ。非鉄金属達は鉄には無い凄い物性をいくつも持っています。高性能な機械になればなるほど、非鉄金属が使われる比率が高まります。ハイテク技術の象徴ともいれる宇宙航空機産業が良い例ですね。ロケットや飛行機などの部品には非鉄金属が利用されることが多いんですよ。

本記事では、そんな非鉄金属の種類や特徴をわかりやすく紹介していきます。非鉄金属を知るには、当然"鉄"を理解しておく必要があります。鉄についての解説記事も書いていますので本記事を読む前に、是非ご一読ください。

非鉄金属って何?

非鉄金属は文字通り、鉄ではない金属の総称です。非鉄とは"鉄に非ず"という意味で、鉄以外の金属のことをまとめて非鉄金属と呼びます。鉄か鉄でないかで金属を二分してしまうのは、些か大雑把ではないかと思いますが、逆にいえばそれだけ鉄という材料がメジャーだということです。

誰もがパッと思いつく代表的な非鉄金属は、金、銀、銅などでしょう。金色、銀色など色としても馴染み深いですよね。またオリンピックのメダルのイメージも強いです。その他の例を挙げれば、アルミニウムも身近な非鉄金属です。

ちなみに錆びにくいで有名な"ステンレス"も身近な材料の一つですが、これは非鉄金属ではありません。鉄系の合金鋼です。たまにステンレスという金属だと勘違いしている人がいますが、その勘違いはちょっと恥ずかしいですよ。それを聞いてドキっとした方は、合金鋼の解説記事もありますのでそちらを読んで正しく理解しましょう。

非鉄金属はざっくり5つに分類することができます。

・軽金属・・・比重が4ないし5以下の軽い金属 
(例:アルミニウム、マグネシウム )

・ベースメタル・・・精錬が容易にでき、多量に存在する金属。卑金属ともいう。 
(例:銅、鉛 )

・レアメタル・・・流通量の少ない希少な金属
(例:ニッケル、クロム、チタン )

・貴金属・・・・化合物を作りにくい希少性のある金属 
(例:金、銀 )

・放射性金属・・・・放射線を放つ能力を持つ金属
(例:ウラン、プルトニウム )

ここに上げたのは、非鉄金属のごく一部で、まだまだ多くの種類があります。一つずつ細かく説明するとキリがないので本記事では、ものづくりの現場で使用する頻度の高い“アルミニウム“と“銅の2つに絞って解説していきます。 

それではそれぞれの特徴を見ていきましょう! 

アルミニウムってどんな材料?

アルミニウムは、鉄の次に多く使用される金属です。最も身近なのは非鉄金属と言って良いでしょう。混ざりっけのない純粋なアルミは"純アルミ"と呼ばれます。純アルミのままだと強度が弱いため、他の金属を混ぜ合わせた"アルミ合金"として使用されることが多いです。JIS記号はシンプルで頭にはアルミのAの文字がついて、その後ろの4桁の数字で表されます。

アルミの特徴

細かい種類の話は後述するとして、まずはアルミ材料の全体的な特徴の話をします。 

とにかく軽い

アルミの特徴は軽さです。何と比重は鉄の約1/3です。鉄で30kgの材料があったとしたら、同じ大きさのアルミなら10kgだということです。しかし、軽いだけに剛性は弱く、これも鉄の約1/3。同じ形状の材料に同じ力を加えると、アルミは鉄の3倍変形するということになります。

一方、アルミの強度は種類により大きく異なります。種類によっては炭素鋼SS400を超える引張強さを持っているものもあります。ちなみに強度とは破壊に対する強さで、剛性とは変形に対する強さです。そのあたりの物性の理解が曖昧な人は、下記の記事を読むと理解が深まりますよ。 

またアルミは、疲労限度がないという少しヤバい特徴があります。疲労限度とは、材料に一定の力(応力)を繰り返し与え続けたときに、何回繰り返しても疲労破壊しないという力の下限のことです。ちなみに疲労破壊とは、針金をクネクネと同じ個所で曲げ続けると、ある瞬間にポキっと折れてしまう"あの現象"です。誰もが一度は経験したことがあるでしょう。

疲労限度の力(応力)以下の条件で使えば、どんなに力を繰り返し受けようとも疲労破壊は起こしません。しかしアルミにはその疲労限度がないため、どんなに小さな力でも繰り返し受けていれば必ず疲労破壊を起こすということになります。

なので、アルミ材料を使う際は、その特性を理解した上で設計することが大切です。基本的には繰り返し負荷を受ける箇所に使用しない方が良いですね。これはしっかり覚えておきましょう。

加工性が良い

アルミは柔らかい材料なので、非常に加工性が良いです。とにかくサクサク削れます。

耐食性が高い

表面に酸化被膜という膜を形成する特徴があり、その膜に守られているため耐食性に優れます。アルミ=錆びないというイメージも強いですよね。厳密にいうと、酸化被膜の錆の一種なので、錆びないわけではなく既に錆びているから錆びようがないって感じです。

熱伝導率が高い

熱伝導率が高いので、鉄よりも熱を使える性能に富みます。鉄よりも熱されやすく冷めやすいということです。この特性を活かして、冷却フィンの材料に多く使われます。しかし、アルミの融点は660℃と低く、200℃を超えると強さが低下するので、構造体として使用する場合は温度には注意が必要です。

また、熱による寸法の変化量を表す物性の"線膨張係数"は、鉄の2倍です。つまり、同じ温度変化でも鉄の2倍寸法が変化します。温度変化の激しい環境で使うと、寸法が安定しませんのでその点も要注意です。

その他の特徴

見た目は独特の艶感をもち、美しいです。アルミ削り出しの日用品なんかもよくあります。無骨な感じが男心をくすぐりますよね。

アルミの種類

アルミの種類は大まかにはA1000系~A8000系までがあり、それぞれ、なんの金属が混ぜ合わさっているかで種類が分かれます。覚える必要はありませんが、それぞれのアルミ合金の特徴をザックリ見ていきましょう。 

1000系 (純アルミ) 

純度の高いアルミです。強度が弱いので、構造体には使いません。見栄えが良いので化粧カバーなどに使われたりします。ちなみに1円玉も純アルミです。 

2000系 (Al-Cu-Mg系) 

アルミと銅とマグネシウムの合金です。2000系の中でもA2017はジュラルミン、A2024は超ジュラルミンと呼ばれる材料で高い強度を誇ります。 

3000系 (Al-Mn系)

アルミとマンガンの合金です。純アルミから、耐食性や加工性を損なうことなく強度を少しだけ上げた合金です。アルミ缶は3000系のアルミです。

4000系 (AI-Si系) 

アルミとシリコンの合金です。シリコンを添加することで、線膨張率が改善され、さらに耐摩耗性が上がります。耐熱性にも優れるため鍛造ピントンなどの材料として使用されます。

5000系 (Al-Mg系) 

アルミとマグネシウムの合金です。アルミニウム合金の中で最も使われる比率が高い種類であり、代表的なのはA5052です。加工性、耐食性ともに優れており、かつ溶接も可能な万能選手です。

6000系 (Al-Mg-Si系) 

アルミとマグネシウムとシリコンの合金です。5000系と同じく、加工性、耐食性、溶接性に優れています。また押し出し加工性が良いので、Lアングルやアルミサッシによく使われます。みんな大好きミスミのアルミフレームも6000系のアルミ合金です。

7000系 (Al-Zn-Mg系) 

アルミと亜鉛とマグネシウムの合金です。代表的なのはA7075で超超ジュラルミンと呼ばれます。アルミ合金の中で最も高い強度を誇ります。引張強さは570[N/mm^2]です。これは炭素鋼の代表格であるS45C相当なので、かなりの強度です。アルミの軽さと鋼の強度を合わせ持つすごい材料です、超超という名前に相応しいですね。その代わり、非常に高価です。航空機の構造体材料としてよく使用されています。

アルミニウム鋳物 

鋳造用のアルミ材料です。アルミ鋳物の用途は非常に広く、車のエンジンを始めとする多くの部品に使用されています。鋳物にすると材料から削りだすよりも、材料を削る量が減るので加工時間が減って生産性が高まります。さらにアルミはもともと加工性の良い材料ですから、それらの特性が相まってアルミ鋳物は非常に生産性がよく大量生産品に向いています。 

最近では工作機械の構造体用のアルミ鋳物材料も開発されました。牧野フライスという工作機械メーカが材料メーカと共同で開発したATHIUM(アシウム)という材料です。私は工作機械の設計に携わっているので、個人的にとても興味のある材料の一つです。 

ATHIUMについて勝手に考察した記事もありますので、ご興味あればそちらも合わせてお読みください。

銅ってどんな材料?

人類が初めて手にした金属と言われているのが銅です。歴史の勉強をすると、装飾品や武器、食器、大仏やなど銅でできたものがたくさん出てきますよね。それだけ古くから使われている歴史ある材料だということです。鉄の融点1500℃に対して、銅の融点の方が1000℃と低いため、比較的入手しやすかったのが理由だと言われています。JIS記号はシンプルで頭には銅(Copper)のCの文字がついて、その後ろに4桁の数字で表されます。

身近な銅というと日本では10円玉のイメージが強いですよね。ちょっと余談になりますが、日本の硬貨は1円玉以外は全部銅なんですよ。 

銅の特徴

まずは銅材料の全体的な特徴の話からしていきましょう。

優れた導電性

銅の最大の特徴は導電性です。電気が流れやすいということですね。電気配線の材料としてよく使われます。導電性だけで見てれば、実は銀の方が優れているのですが、値段が安く入手性が良いということもあり、銅が広く使われています。オーディオマニアなんかは、音質向上のために導電率の高い銀線を使ったりしますけどね。

熱伝導率が高い

熱伝導率は実はアルミニウムより銅の方が優れています。この特性を活かした製品としては、銅鍋などがあります。熱が伝わりやすいので、鍋の底と側面の温度差を小さくき、食材を均等に加熱することができるんです。

アルミ同様に、高い熱伝導率を活かして冷却フィンとして使用されることもあります。ただ、コストの観点からメジャーなのはアルミの冷却フィンです。高スペックPCなどは、性能に拘って銅製の冷却フィンを使っている場合もありますね。ただし、耐熱温度は低く、200℃を超えると軟化します。高温環境化での使用には不向きですので、構造体として使う場合は注意が必要です。

金色の光沢がある 

金以外で唯一、金色をもつ金属です。銅というと、金色とは言い難い茶色の光沢をもつイメージがありますが、銅と亜鉛の合金である黄銅はその名の通り黄色みがかった色をしており、金の光沢を持ちます。その美しさから工芸品に使われることも多いです。

加工性が良い

銅はとても加工性が高い材料です。加工性の高さも、銅が大昔から使われる理由の一つですね。また、切削加工性だけでなく展延性にも優れているため、非常に良く伸びます。プレス機などを用いた絞り加工にも向いています。

耐食性が高い

耐食性に優れています。他の金属が苦手としている海水に対しても、耐性があります。ただ、10円玉でご存じの通り経年による変色はします。あれも錆による影響なのですが、あくまでも表面上だけの話であり、磨きなおせば元も輝きを取り戻します。

皆さんもタバスコを使って10円玉をピカピカに磨いた経験はありませんかね?あれは、10円玉の表面に発生した"酸化銅"をタバスコに含まれる酸が溶かすことで起きる酸化還元反応なんですよ。

その他の特徴

磁性はないので磁石にはくっつきません。また銅には抗菌作用があり、細菌などのウィルスの働きを抑える働きをします。その特徴を生かして、医療分野などにも使われます。最近では、新型コロナウィルスの流行もあり、抗菌や殺菌に高い注目が集まっています。銅コーティングを施す工作機械なども研究されていますね。 

銅の種類

銅の種類には大まかには1000系~7000系までがあり、それぞれ、なんの金属が混ぜ合わさっているかで種類が分かれます。この辺りはアルミと同じですね。ただ、JISの区分けと和名と整合していないという特徴があります。規格が制定されるずっと前から使われ続けてきた材料ならでは、ですね。

覚える必要はありませんが、それぞれの銅合金の特徴を和名でザックリ見ていきましょう。 

純銅

純粋な銅です。高い導電率や熱伝導率を生かして、銅線や電子機器の材料に使われます。強度は低いため、あまり構造物には使用しません。

黄銅

銅と亜鉛の合金で、真鍮(しんちゅう)とも呼ばれます。加工性、強度、導電率、耐食性と非常にバランスの良い材料で幅広い製品に使用されます。

りん青銅

銅とスズの合金です。高いバネ性があり、スイッチの接点などに使用されます。

ベリリウム銅

銅とベリリウムとコバルトを加えた合金です。炭素鋼を超える引張強さがある高強度材料で、耐熱性も高く、600℃付近まで使用可能です。非常に高価であり、また加工性も悪いので用途は限定的です。火花がでないという性質があるため、防爆工具の材料としても使用されます。 

まとめ 

本記事を復習しましょう。

・鉄ではない金属をまとめて、"非鉄金属"と呼ぶ
・非鉄金属には、軽金属、ベースメタル、レアメタル、貴金属、放射性金属 などがある
・鉄の次に多く使用される金属がアルミニウム
・アルミの特徴は、軽さ、耐食性、加工性 等
・人類が初めて手にした金属が銅
・銅の代表的な特徴は、導電性、耐食性、金の光沢 等

今回は誰もが知っている非鉄金属である”アルミ”と”銅”に絞って紹介しました。特にアルミは実務で使用する頻度も高いので、しっかり理解しておくと良いでしょう。本記事が皆さんの勉強の足掛かりとなれば幸いです。

非鉄金属には、チタンマグネシウムなどの金属界のエリートともいうべき超高性能な材料も含まれています。非鉄金属と聞いた時、こちらをイメージした方も多いかもしれませんね。これらの材料は普通の機械を設計していても、なかなかお目にかかれません。私は約10年ほど機械設計の仕事をしていますが、チタンやマグネシウムを取り扱ったことは一度もありませんね。一度は使ってみたいんですが、なかなか機会がありません。

本当はこれらの材料の話も記事にしようと思ったんですが、いかんせん使ったことがないのでチタンやマグネシウムに関する知識がほとんどなく・・・全く筆が進みませんでした。また、勉強して次の機会に書きたいと思います!!

本記事を書く上で、参考にした書籍を紹介します。”加工材料の知識がやさしくわかる本”です。タイトルの通り、かなり優しく材料のことが解説されているのでとっつくやすくてオススメです。学術的というよりも実務寄りの内容なので、「機械設計初心者」や「復習がてらもう一度材料の事を学びたい人」にはうってつけですよ。機会があれば手に取ってみてください。

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材料の基礎知識も下記の記事にまとめてありますので、是非とも合わせてお読みください!!

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