ものづくりに携わる人なら"マシニングセンタ"って言葉は聞いたことあると思います。マシニングセンタは、主に平面の金属加工を得意とする工作機械の一種です。今回はそんなマシニングセンタに関するちょっとした“豆知識“の記事です。
マシニングセンタって・・・
なぜマシニングセンタなのか?
Youは知ってる?
哲学的な質問ではありませんよ、名前の由来を知ってますか?というシンプルな質問です。そもそもマシニングセンタってなに?という人も大丈夫。マシニングセンタの概要や歴史を辿りながら説明しますので、読み終わる頃にはこの豆知識をドヤ顔で語れるようになっているでしょう。ちなみに私はこのマシニングセンタの開発をしている技術者です。そんなマシニングセンタを愛してやまない私と一緒に、工作機械の歴史を学びましょう!!
マシニングセンタって何なの?
まずはマシニングセンタとは何かについて説明します。
日本工作機械工業会の定義では
工作物の取り付けを変えずに、フライス・穴あけ・中ぐり・ねじ立てなどの種々の作業ができる数値制御工作機械である。多数の種類の異なる工具を自動的に作業位置に持ってくる装置を備えたもの、または、少なくとも二面以上を加工できる構造で、工具の迅速な交換機能をそなえた機械
とあります。この説明はちょっと難しいですね。早い話が、"工具を自動で交換できる機能が付いたNCフライス盤"をマシニングセンタ“と呼びます。ちなみにフライス盤とはこのような機械です、手でハンドルを回すことで平面の切削加工を行うことができます。
そして、このフライス盤にNC装置と呼ばれる制御用のコンピュータが付くと、NCフライス盤となります。職人がハンドルを回して行っていた機械の操作をコンピュータ、サーボモータが自動で行ってくれます。そしてさらに、このNCフライス盤に自動で工具が交換できる機能が付くとマシニングセンタに進化するわけです。
本題に入る前に、マシニングセンタの歴史もさらっと学んでおきましょう。
マシニングセンタの歴史
マシニングセンタは1960年に誕生しました。アメリカのカーネイ&トレッカー(Kerny & Trecker)社という工作機械メーカーがアメリカの工作機械見本市である“シカゴショー”に出展して知れ渡ります。下記の画像が、 世界初のマシニングセンタ「ミルウォーキーマチック」です。
この機械が誕生した時点では“マシニングセンタ“という呼び名はなかったようですね。ミルウォーキーマチックの出展を皮切りに、工作機械メーカー各社が自動工具交換機能のついたNCフライス盤(のちのマシニングセンタ)を開発することになります。そして1965年のシカゴショーでは、各社が“マシニングセンタ“の愛称で工具交換機能付きの機械をこぞって出展しました。そこから各社が技術を高め合いながらシノギを削り、今日のマシニングセンタに繋がっているわけです。
余談ですが、この「ミルウォーキーマチック」は相当の衝撃を世界の工作機械業界に与えたことでしょう。今まで作業者が手動でやっていた工具の着脱を自動でやってしまうわけですからね。この工具自動交換装置はATC(Auto Tool Changer)と呼ばれ、今となっては付いていて当然の機構です。ATCを最初に思いつき、設計した技術者は本当にすごいと思います。ちなみに・・・・そんな素晴らしい技術者がいた筈のカーネイ&トレッカー社ですが、1990年に"ギルディングルイス(Giddings&Lewis)社"という工作機械メーカーに買収されてしまいます。そして、その買収元のギルディングルイス社さえ、今度はフランスの大手グループ企業”ファイブス(fives)グループ”の傘下に収まり、結局カーネイ&トレッカー社は跡形もなく消えてしまいました。時代の革命児であったはずなのですが、時代の流れは厳しいですね。
下記は買収元のファイブスグループのHPです、参考まで。
さて、だいぶ前置きが長くなりましたが、ここからが本記事の本題です。上述の説明文で
各社が“マシニングセンタ“の愛称で ・・・
と書きましたが、そもそも“なぜマシニングセンタと呼ばれるようになったのか“という話です。その謎に迫ります。
マシニングセンタのセンタってどういう意味?
まずマシニングセンタという言葉をみていきましょう。この言葉は"マシニング" + "センタ"というように2つの言葉に分けることができます。マシニングとは、加工の種類のことです。フライス削り、中ぐり、穴あけ及びねじ立てを含む複数の切削加工のことを表しています。簡単にいえば、工具が回転する機械加工です。ちなみに、材料が回転する加工は旋削加工と言います。
切削加工についてはこの記事でわかりやすく解説しているので、興味があれば読んでみて下さいね。
つまりマシニングセンタとは、“マシニング加工“ができる“センタ“という意味だということです。では一体、“センタ“とは何なのでしょう?
機械加工のことを知っている人はお気づきかもしれませんが、センタとは旋盤の芯押し台のことです。芯押し台とは、旋削加工で材料を安定させるために使う治具のことです。旋削加工ではチャックと呼ばれるハンドルに材料を固定して、それをクルクルと回して側面からバイトと呼ばれる刃物を当てて加工します。
短い材料だったら、チャックだけで掴むだけで良いですが、ある程度の長物になってくると材料がたわんで“振れ“が出ます。振れがでるような材料を加工するときは、材料の端面を芯押し台で押して材料を支えることで、安定した加工を実現することができます。これが芯押し台(センタ)の役割です。
芯押し台の役割はわかりましたね。では、それがどのようにマシニングセンタと関係するのでしょうか。これは構造を見てみるとよくわかります。
芯押し台はテーパ形状になっており、材料や加工条件に合わせて“センタ“を交換できるようになっています。一方、マシニングセンタのツール固定方法もこのセンタと同じようにテーパ形状になっており、"工具"を交換できるようになっています。つまり、テーパ固定+交換ができるという共通点があるわけです。
これってかなり構造似ていますよね?
旋盤はマシニングセンタ誕生のはるか昔から存在しています。当然、旋削加工の治具であるセンタも工作機械の技術者にとってなじみ深いものでした。まだマシニングセンタという言葉がなかった時、最初に出展された自動工具交換装置の付いたNCフライス盤。この機械の工具の交換方法や構造がセンタの構造とよく似ていることから
まるで「マシニング加工ができるセンタ」のようだ !!
ということで、マシニングセンタと呼ばれるようになったんです。
まとめ
本記事の復習をしましょう。
・マシニングセンタは、自動工具交換機能のついたNCフライス盤
・世界初のマシニングセンタは1960年に発表された「ミルウォーキーマチック」
・マシニングセンタは、マシニング加工のできるセンタだからマシニングセンタ
マシニングセンタがなぜマシニングセンタというのか・・・機械加工の仕事をしている人でも当たり前すぎて、あまり考えたことがなかったんじゃないですかね?是非とも、ドヤ顔で顔で色んな人に話してみてくださいね。 ただ、この話には明確なエビデンスがあるわけではなく、諸説あります。あくまでも そういうこと「らしい」という由来の一つと捉えていただければ幸いです。まあ、私がこの話を聞いたのは日工会が主催する工作機械セミナーに参加した時なので、それなりに信憑性はあると思いますけどね。
身の回りのものでも、名前の由来などを調べると意外な発見があるのもです。工作機械関連で言えば、旋削工具の総称である“バイト”やマシニング工具の一つの“エンドミル”など・・・なんでそう呼ぶのか考えたことありますか?本記事ではあえて書きませんが、是非調べてみてください。この名前の由来はすぐに出てくるはずです。是非一度、そういう目線で周りを見渡して見てください。もしかしたら、何か良い気づきがあるかもしれませんよ。
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