【コラム】機械設計者として海外で働いた話 アイキャッチ

機械設計 コラム

機械設計者として海外で働いた話

"グローバル化"なんて言葉が取り沙汰されて十数年、今では国境を越えて働くこともさほど珍しくない時代となりました。そうはいっても、機会に恵まれなければ海外で働くというのはなかなかハードルが高いことです。私は運の良いことに機会に恵まれ、約半年程度ですがヨーロッパで機械設計者として働いていました。本記事では、そのときに感じたことをコラムとしてざっくばらんに書き綴ろうと思います。

将来は海外で働きたいと思っている学生や技術者に少しでもその雰囲気が伝われば良いなと思います。また、本コラムには私の独断と偏見も含みますので、あまり真に受けず肩の力を抜いて読んでいただければ幸いです。ざっくばらんに書き綴りますよ。それではいきましょう!!

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海外でどんなことをしていたの?

海外で働いたといっても、現地で雇用されていたわけではありません。私の勤め先には、ヨーロッパに現地法人のグループ会社があり、そこに"出向"という形で勤務していました。そうはいっても、上司も同僚も全員が現地人で言葉も通じず右も左もわからない状態で業務はスタートしました。

業務自体は、日本で行っていたのと同じ機械の開発業務です。開発の進め方自体も日本と大きくは変わりませんでした。基本的には最初にマーケティングがあり、上層部がざっくりした仕様を決めて、我々技術者が要求仕様を満たした機械を開発するというトップダウン式の開発です。設計で使用していたCADも日本で使用していたものと同じだったので、職場環境としては殆ど変わりませんでしたね。

言葉はうまく伝わらなくても、技術というものは万国共通です。ポンチ絵でも描いて、片言の英語で説明すればそれとなく言いたいことは伝わりました。国ごとに設計者の趣向は違いはあれど、“良い設計”というのはどの国へ行っても同じですね。設計手法については、海外と日本でそこまで大きな違いはないように思いました。

英語力はどれくらい必要なの?

当たり前ですが、英語は話せるに越したことはありません。ただ心配はご無用、思ったよりも何とかなります。参考までに伝えておくと、出向した当時の私の英語力はTOIEC260点でした。

絶望的英語力ッ!!!

しかし、上述の通り意外となんとかなるもんです。最後の方は、一人で電車で出掛けることもできてましたし。帰ってきてTOEICを受けなおしたら、なんと300点でした!!まったく成長してない!!

言葉は違いの一つでしかなく、それよりも大きな違いを感じたのは、“働き方”ですね。昨今、働き方改革という言葉をよく聞きますが、ヨーロッパと日本とでは労働に対するスタンスが根本的に異なります。日本の感覚に慣れてしまった私にとってははまさに革命でした。この記事でその辺りのニュアンスが少しでも伝われば良いなと思います。

ややこしい!!第一角法と第三角法

最初に突き当たったのは、図面の違いでした。日本では、図面は第三角法で描きますがヨーロッパでは第一角法が主流なんですよね。これが非常にややこしく、苦労しました。全ての図面が第一角法なら頭を切り替えてしまえばよいですが、日本からの図面は第三角法ですからね。図面が混在していて、非常に混乱しました。

ちなみになぜ国ごとに投影図法が違うかというのは、部品を見るときにどうやって見るかという考え方・文化の違いらしいです。部品全体を見るときに部品に対して人が回り込むか、部品を回すかというイメージの違いで投影図法が異なります。

第一角法・・・ 人は動かず部品を回してみるイメージ
第三角法・・・ 部品は動かず人が回り込むイメージ


部品は動かさず自分が動くっていうのは、なんとなく日本人らしいですね。

第一角法は"Method E"とも呼ばれています(EはEuropeの頭文字)。この表記があったら第一角法で描かれた図面なので、ご注意を。

設計者は図面を描かない?

ヨーロッパでは設計者が図面を描くことはほとんどないようです。設計者は設計に注力をして、作図は図面を描くためのCADオペレータの仕事です。徹底した役割分担がなされています。

"設計はクリエイティブな仕事"で、"作図は非クリエイティブな仕事"という認識がかなり強いようです。私が在籍している期間中に、有能な設計者がヘッドハンティングされて入ってきました。繁忙期に入り、人手が足りなくなったところで、彼にも若干の作図業務が回ってきたらしいのですが

「なぜ俺がこんな仕事をやらなきゃならないんだ、屈辱的だ!!」

と怒ってしまい、そのまま会社を辞めていきました・・・。彼はいささか極端かとは思いますが、そのくらい設計者が図面を描くということがないんですね。逆に言えば設計者が"設計"に注力できる環境が整っているとも言えます。

また海外では設計者が現場から直接呼び出しを受けることもありません。窓口は生産技術となっており、生産技術が問題の要点を整理した状態で設計に情報が回ってきます。非常にシステマティックです。

日本で働いていると設計者はある意味"なんでも屋さん"です。設計をする上で色々な部署から色々な要望がきます。それは技術的なこと以外の話だったり、社内の政治的な話であったりと色々なものに巻き込まれながら、それを取りまとめて設計に落とし込んでいきます。技術的な課題以外の部分に頭を使うことも多いです。些細なことで現場から呼び出しを受けることも多々あります。

ヨーロッパの働き方は、"技術者にはひたすらに技術のことに没頭させてアウトプットさせる"という思想が基本となっているような気がします。日本ではここまでスパっと区分けを作ることは難しいですね。国民性を表す言葉で"Noと言えない日本人"というものがありますが、断れずなんでも引き受ける日本人の国民性がを無意識に"仕事の範囲"を広げてしまっているのかもしれませんね。

これに関しては単に国民性の問題だけでなく、採用方式の考え方の違いがあります。説明しだすと長くなるので割愛しますが、"ジョブ型雇用"と"メンバーシップ型雇用"の違いです。詳しく知りたい方は、下記の記事を読むか、私のポッドキャストを聞いてください。

●note

●podcast

ちなみにドイツでは、設計者は医者や弁護士と並ぶ高給職の部類に入るらしいです。やたらと自慢してくるドイツ人の設計者から聞いたので、本当かどうかはわかりませんが。彼は南ドイツで働いていて、年収は日本円で約2千万円とのこと。ただ、南ドイツってスイスとの国境付近だと物価も凄く高いんですよね。その周辺だと当然賃金もかなり高いので、業種よりもどこで働くかの方が収入に影響があるかもしれませんが。真意はどうあれ、設計者が大切にされているのは間違いないですね。

残業?なにそれ、美味しいの?

ヨーロッパの人は、まず残業しません。定時になったら誰もいなくなります。まず、ヨーロッパの給与体系は"年俸制"が主流なんです、野球選手みたいでかっこいいですね。当然、残業代は付かないので残業をする人はいません。

その代わり、業務中はかなりの集中して効率重視で仕事を進めています。日本にいるとよく見る"謎のたばこ休憩"とか、"雑談タイム"みたいなものは一切なく、決められた時間内にしっかりとアウトプットを出すことがひたすら求められます。残業はできないわけではないのですが、残業している=時間内に仕事が終わらなかった無能というネガティブな印象が強いです。

また、有給休暇もバンバン取得します。特に夏季の休暇では、"バカンス"と呼ばれる1か月程度の休暇がありしっかり全員が取得します。休みを取るのは当然の権利なので、相当なことがない限り業務都合で休みを変更することはありません。仕事よりも休みが優先なんですね。

ヨーロッパの価値観では、“仕事<プライベート”が当たり前です。彼らの人生観では、"家族と過ごす時間"というのをとても大切にしています。"家庭を顧みず仕事をする"という自己犠牲の精神の日本の考え方とはまったくの真逆です。

良い仕事をするためには、しっかり休みプライベートを充実させる必要があると彼らは考えているんです。これもまた非常に合理的ですね。

実力主義!!できない人はさようなら

ヨーロッパには終身雇用という概念がありません。キャリアアップのための転職は当たり前で、転職しない人の方が珍しいくらいです。職を変えるハードルが低いわけですが、会社視点だとクビを切るハードルもかなり低いです。

現地人の同僚に業務中によく居眠りをしている人がいたのですが、あっさり解雇されました。日本では仕事が出来なくてもそれを理由に解雇されることはまずありませんが、ヨーロッパだと徹底した実力主義のもと一定のレベルに満たなければすぐにクビです。

ただクビにされるハードルが低いからと言っても、職場自体がピリピリしていることはありませんでした。転職が当たり前の社会ですので、クビになっても次の仕事を探すだけですからね。解雇されること自体もそんなに珍しいことでもないのでしょう。

ヨーロッパの人自体は、温厚で親切な人が多い印象ですが、組織やシステム自体は効率に特化した非常に冷たい印象です。日本は人情、ヨーロッパは効率というイメージですかね。

会議大好き日本人

日本人は会議好きですよね。ヨーロッパでは、打合せは朝のミーティングのみ。そこで一日の予定を報告したらあとは各自仕事を行っていくというスタイルでした。何か問題があれば、その時々で人を集めて打合せを行います。これも、無駄に他人の時間を浪費してはならないという効率重視の考え方です。

現地のグループ会社には、私以外の日本人も数十人はいました。日本人のお偉いさんだけで行う会議もあったのですが大体、週に2,3回のペースで2~3時間打合せを行ってました。現地の設計者は会議室を見ながら

「また始まったよ、あいつらは本当におしゃべりが好きだな。」

と言ってからかっていたのを覚えています。

ちなみに、先ほどの書いたように定時過ぎると現地人は全員退社するのですが、日本人は全員残業してました。それもテキパキと仕事をするのではなく、なんとなくダラダラと雑談しながら3時間くらい残業をして帰ります。日本人のお偉いさんがなかなか帰らないので、皆帰りにくい様子で・・・。ヨーロッパで仕事をしているはずなのに、定時後のそこはまさに日本そのものでした。これはいったい何なんでしょうね、かく言う私も帰れなかったわけですが。

「そんなに会社が好きなら、住めばいいのに。」

ともからかわれました。まったくもってその通りだと思いますね。

文句はその場で、跡を濁さず

日本で飲み屋に行くと、仕事とか会社とか上司の愚痴とか言いませんか。話題の中心がそういう話になりがちですよね。ヨーロッパでは、飲み屋で仕事の愚痴を言っている人は見たことないです。趣味の話とかスポーツの話とか、下ネタ(万国共通)とかそういう話しかしていないです。なぜかというと、彼らは不満は持ち帰らず文句があるならその場で言ってしまうんですね。

それなので、議論がヒートアップしている場面が多くみられました。喧嘩とまではいきませんが、それに近いところまでヒートアップしますが、不思議と落としどころを見つけて綺麗に解決するんですね。彼らは仕事の不満すらプライベートに持ち出さず、その場で解決してしまうんです。これは本当に見習うべき部分です。

これは人づてに聞いた話ですが、彼らが議論しているのは"アウトプット"についてのみなんです。つまりは、仕事のやり方には口出しせず、出てきた成果物に対してのみ徹底的に議論しているのです。仕事のやり方に口を出し始めると、行きつく先は決まって人間性の否定です。そうなったらもう泥沼の喧嘩ですよね、勝ち負けもつかないし、終わった後に遺恨を残します。極端な例で表すと

A「なんだこの形は!!この形は〇〇だから全然駄目だ。」
B「なんだこの形は!!仕事のやり方が△△だからこんな形になるんだ。」


Bは悪いパターンですよね、この先は泥沼です。Aはどんな口調であっても、論理的に話ができれば必ず落としどころが見つかります。やり方には口を出さないという暗黙のルールなのか、文化のようなものが浸透していてそれが跡を濁さない議論となっているようです。

まとめ

ヨーロッパでは効率重視の働き方をしていると感じました。逆に日本は高度経済成長期に築かれた古き良き時代の働き方や文化が未だに根付いていて、それが足枷となってしまっているように思います。

ヨーロッパの会社は良くも悪くもソロプレーヤーの集まりです。個人のアウトプットを最大限に高めて、最小限の力で取りまとめています。今の日本がそこまでドライな組織を作れるのかは疑問ですが、日本の労働に対する価値観は、仕事よりプライベートを重視するヨーロッパ寄りの考え方になってきていると思います。働き方改革と言いますが、個人でできることには限界がありますので、組織としての在り方もヨーロッパを見習っていかなければならないのかもしれません。

ヨーロッパの人はプライベート重視の価値観といいましたが、誤解しないで欲しいのは、彼らは仕事に熱意がないというわけではありません。多くの人が仕事を好み、自分の仕事に誇りを持って働いています。設計者も技術大好きオタクばかりでした。

私はヨーロッパの働き方に感化され、帰国後はヨーロッパスタイルで働こうと心に決めていましたが、帰国一週間でジャパニーズスタイルに逆戻りしました。郷に入っては郷に従え・・・身にしみた国民性と職場環境は恐ろしいですね、そう簡単に覆せるものではありません。働き方改革はまだまだ遠いですね。

海外勤務の経験を通して他の国の人もものづくりに熱中していることがわかり、今の仕事が更に好きになりました。当面は海外に行くことはなさそうですが、もっと円滑にコミュニケーションが取れるよう、とりあえず英語も継続して勉強しようかな・・・と思います。一応、帰ってきてから英会話教室には通い始めたんですけどね。TOEICは・・・まあ・・・・。

本記事では主に“働き方”にフォーカスして執筆してましたが、海外で学んだことはまだまだあります。書ききれない部分はまた別の機会に紹介しますね。皆さんも機会があれば、積極的に手を挙げて海外で働くことに是非ともチャレンジしてみてください!!

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