業界研究

すごいぞ!!日本の工作機械業界

「日本の代表的なものづくり産業といえば!?」

と聞かれたとき、あなたは何を思い浮かべますか。まず思い浮かぶのは、おそらく自動車業界でしょう。これは誰もが思いつく日本が世界に誇れる業界の一つです。しかーし、その他にも日本が世界をリードする業界があるんです。それが工作機械業界です。工作機械と聞いても、ピンとこない人も多いでしょう。それもそのはず、工作機械は一般消費者の目に触れることのない機械です。それ故に工作機械業界は一般認知度は低いですが、それでもものづくり産業の基盤を支える非常に重要な業界なのです。

本記事では、工作機械業界に10年以上勤める技術者である私が、工作機械業界の基礎や魅力について簡単に紹介していきます。この業界に身をおく者として色々な方にこの業界のことを知ってもらえたらと思っています。それでは、さっそくいきましょう!!

お知らせ

この記事は音声でも聞くことが出来ます。音声版の内容は本記事の内容は多少異なりますので、記事を読んで音声も聞いてもらうと一粒で二度おいしいかも??

工作機械ってなんだ?

製造業に携わっていない方は工作機械といわれてもパッとイメージできませんよね。まずは、工作機械とはどのようなものなのか理解するため動画を見てみましょう。

これが工作機械です。工作機械とは、呼んで字のごとく工作を行う機械のことで材料を加工して、製品や部品を作り出していきます。材料は金属に限らず、樹脂や木などの加工も行います。加工方法は削るだけでなく、溶かす、曲げる、など様々ですが一般的には金属を切削加工する機械のことを工作機械と呼びます。本記事で説明する工作機械業界とは、金属を切削加工をする機械の業界のことです。

切削加工について詳しく知りたい方は、是非下記の記事も併せてお読みください。

工作機械は、機械を作る機械という意味で"マザーマシン"と呼ばれています。この世に存在する全ての機械は、源流を辿れば、必ずこの工作機械から生み出されています。周りを見渡してパッと目に付くもの全て、例外なく工作機械が携わっているんです。これはすごいことですね!!

例えば、私が周りを見渡して最初に目に付いたもの・・・パッと目に付いたのはペンのフタです。これは射出成型機という機械で作られているわけですが、この成型機の部品は工作機械が作っています。今あなたが着ている服。それは縫製機械により布が作られ、工業用ミシンで形作られているわけですが縫製機械もミシンもその部品は工作機械で作られています。

このように間接的であっても工作機械は必ずあなたの生活に関わっています。そして現代社会において、あなたが工作機械に関わらず生きていくことは不可能といってよいでしょう。工作機械はそれほどに私達の生活を支えている重要な機械なんですね。

またその影響の広さのみならず、工作機械はその国の製造業のレベルに深く関係します。それが"工作機械の母性原理"です。工作機械の母性原理とは、工作機械によって生産される部品や製品の精度はそれを作り出す"工作機械の精度"によって決まるというものです。逆に言えば、生産される部品や製品は、それを作り出す工作機械の精度を超えることができません。

部品の精度は、その国の製造業のレベルそのものです。つまり、言い換えれば工作機械の性能がその国の製造業のレベルとなります。精度のよい工作機械があるかどうかが、その国の製造業にとって非常に重要なことなんです。工作機械を用いれば、大量破壊兵器などの武器の製造ができてしまうことから世界の平和を脅かす可能性がある国には工作機械を輸出することが出来ないという法律もあります。このように工作機械は国レベルでとっても非常に重要な機械なんですね。

日本の工作機械のすごさ

工作機械の重要性がわかったところで、次は日本の工作機械の"すごさ"を説明します。日本製の工作機械は技術力で世界をリードする存在です。かつては工作機械と言えば米国が世界的に有名でした。しかし、日本はその米国の技術力を吸収し、独自に発展させることで1982年には工作機械の生産額で米国を追い抜き、世界1位となりました。

その後、26年間、世界1位に君臨し続け、工作機械と言えば日本というイメージを世界に植えつけました。ものづくり大国ニッポンは、工作機械大国ニッポンでもあるわけです。前項でも説明したように「工作機械のレベル=製造業そのもののレベル」ですから、当然ではありますね。2008年に生産額で中国に追い抜かれたものの、現在もドイツと2位争いを争っています。

引用:日本の工作機械産業2021

生産額のみならず、その技術力や品質、生産性の高さからも日本の工作機械は一目置かれています。例えば、日本は世界初で初めて対話型CNCという装置を開発しました。対話型CNCとは、まるで会話をするように質問に答えていけば加工に関する知識を持っていない素人であってもプログラムが出来るという画期的なNC装置です。これは、当時の高度な知識をもっていなければ工作機械を扱うことができないという常識を打ち砕く画期的な発明で、業界に衝撃を与えました。

そのあたりの歴史は下記の本に詳細が書いてあるので、気になる方は読んでみるとよいでしょう。

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また、旋削加工やフライス加工といった本来であれば別々の機械で行う加工を一台の機械でできるようにした複合加工機というものを実用化したのも日本企業が初です。このように現在に至るまで、日本は世界の工作機械業界をリードし続けているのです。

数字で見る工作機械業界

生産額の規模

工作機械業界は市場規模としては非常に小さい業界です。生産額ベースで見てみると、2020年の日本の機械工業全体の生産額が53兆507億円なのに対して、工作機械の生産額はそのうちの7240億円です。全体で見れば、わずが1.4%程度であり、非常にニッチな分野といえるでしょう。

引用:日本の工作機械産業2021

(こうやって図で表してみると、改めて輸送機械の強さを実感しますね。)

ちなみに世界全体の工作機械の市場規模は年間約770億ドル(2019年のデータ)で、そのうち日本はシェア約20%で世界2位を誇ります。ちなみに、航空機産業の市場規模は約9兆ドルなので、二桁違いますね。世界の市場規模でみても他業種と比較すると見劣りしますね。このように工作機械の製造業に対する役割は大きいですが、市場の小さいニッチな業界でもあります。

工作機械業界の従業員数

工作機械業界で働く人の人数は、2020年のデータでは26,926人となっています。この中に当然、私も含まれている訳ですが、機械工業会全体で1,017,930人が働いているので割合でいえば約2.7%です。つまり機械工業会で働いている人の100人に3人くらいは工作機械の関係者ということですが・・・正直、そう言われてもピンときませんが決して多くは無いでしょう。

引用:日本の工作機械産業2021

(生産額的には全体の1.4%なのに、人数ベースでは全体の2.7%とは・・・一人当たりの生産性がちょっと低いかも・・・?皆頑張っているし、あまり深くは考えないようにしましょう(笑))

工作機械の受注総額

工作機械の受注総額とは、その名の通り工作機械を受注した総額です。そのままですね、すみません。ポイントは受注額であって、生産額ではないということです。注文を受けた金額です。

工作機械の受注総額は工作機械業界を語るうえで欠かせません。工作機械の受注総額は別名景気の先行指標とも呼ばれ、経済界からも注目されています。工作機械業界は企業や工場が設備投資を行おうとすれば、受注額が上がりますし、買い控えれば冷え込みます。設備投資の判断は、それぞれの企業の経営者が景気の動向や先行きを見極めて行うものです。今後景気が冷え込むと判断すれば、設備投資は行わず、好景気が見込めると判断すれば投資を決めます。つまり、工作機械の受注額にはそういった経営者の考えや思惑が如実に現れるのです。故に、景気の先行指標と呼ばれ、景気の先行きを予想する指標として使われています。

引用:日本の工作機械産業2021


また、工作機械業界は浮き沈みが激しい業界としても有名です。景気の先行指標と呼ばれるだけあり、景気の影響をダイレクトに・・・そしてどの業界よりも一番早く受けます。実経済によらず、景気が悪くなりそうな雰囲気が漂えば、まず工作機械業界が影響を受けます。そういう浮き沈みに左右される業界なんですね。そのため、昨年はボーナスがいっぱいもらえたとおもったら、今年は半分になってしまった。なんてこともよくあります。忙しい時期と暇な時期の差も激しいですね。

工作機械の受注総額の目安としては、月に1000億円の受注があれば好調だと言われています。毎月の受注額は日本工作機械工業会のHPで確認できるので、是非ともチェックしてくてみてください。

工作機械の技術トレンド

現在の工作機械業界のトレンドは大きくわけて3つあります。

デジタル化

これは工作機械業界に限らず、ものづくり業界全体に言えることですが、デジタル化やIoT化、AI活用の流れは大きいです。各社、手探りの状態ですが新たな価値を生み出そうと力を入れています。

その中でも注目度が高いのが“デジタルツイン“ですね。デジタルツイン は、バーチャル空間上に現実空間を再現して、その中でシミュレーションや事前検証を行うという技術です。検証したデータは、現実空間にフィードバックされます。

バーチャル空間上に機械一台まるまる再現して、実際にモノを削らなくてもどのような加工結果になるか事前検証したり、加工現場の工作機械の仮想モデルをデジタル空間上に再現して、オフィスPC上で“デジタル段取り“を行ったり・・・SFの世界さながらの取り組みがなされています。

とはいっても、デジタル分野に関しては、業界全体として発展途上ではあります。それゆえに各社の競争が激しく、昨今のトレンドの中でも最も熱い分野ですね。

自動化

人件費の高騰に伴い、少ないオペレータ(工作機械を使う人)でなるべく多くの機械を動かしたいというニーズが高まっています。そのため無人で長時間の生産活動ができる機械が求めまれています。「機械なんて放っておけばずっと自動で動いているんじゃないの?」と思うかもしれませんが、長時間の自動化には色々と課題があります。

・正しく部品が作られているか
・工具は破損していないか
・機内の切り屑の掃除はできているか  etc・・・

など、機械を無人で長時間動かすためには実に様々な工夫が必要です。機械単体の性能だけではなく、生産システム全体の能力が求められます。これを提案するのもメーカの勤めです。特に最近では、多軸ロボットアームを利用した自動化提案が流行りで、各社がこぞって開発を進めていますね。

省エネ

持続可能な開発目標SDGs が提唱され、今後は工作機械にも省エネの考え方が求められるようになります

日本全体の電力消費の内、約4割が製造業が消費する電力だというデータがあります。更にその内の約7割が工場内で消費する電力です。そのうち、工作機械が何割の消費を占めるのかはわかりませんが、少なくないのは間違い無いでしょう。

省エネは、直接生産性に関わらないため、今まで蔑ろにされてきた分野でしたが、国の政策も相まって、無視できなくなってきました。工作機械の環境評価に関するJISの整備も進められており、今後もますます省エネ要求は厳しくなっていくでしょう。

工作機械業界で働いている感想

良い点

工作機械は設計難度の高い機械だと言われています。技術者として働くのであれば、様々な機械要素が各所に盛り込まれ、メカ好きにはたまらない機械です。

工作機械メーカは、自社製の機械を使って自社製の機械を作っています。メーカであると同時に自分自身も工作機械のユーザであるのです。自社の製品の性能が上がれば、その製品で作られる次の機械は更によいものになります。このように自社でグルグルとフィードバックを回して、どんどん向上していくのは、この業界ならではの面白さだと思います。

冒頭にも言いましたが、工作機械業界は産業の基盤を支える重要な業界です。縁の下の力持ちとして、自社の機械が世界中で役に立っているんだと思うと、その業界で働いていることに自信と誇りを持つことができます。

悪い点

製造業と関わりの無い人に、工作機械と言ってもほとんど理解してもらえません。

家族や友人に自分の仕事を説明しようとしても、伝わらないことがほとんどです。

「こうさく機械・・・?ああ、畑とか耕すやつね!!」

これが工作機械関係者が受ける洗礼の一つです。耕作じゃない、工作なんだ・・・これがなかなか伝わらないんですよね。工作機械を理解するために、前提として知っておかなければならない知識が多すぎて、説明中に相手が飽きてしまいます。YOUTUBEで加工動画を見せても、「へー、なんかよくわからないけどすごそう」といった感じです。冗談っぽく聞こえるかもしれませんが、自分の仕事をうまく理解してもらえないのは結構悲しいものです。そのとなりで、車の開発に携わっていた友人が羨望のまなざしを浴びていると尚更です。

また、工作機械に限らず生産財全般に言えることですが、自分が携わった機械を買うことができないというのも、良くない点かもしれません。(家を買うくらいの覚悟があれば買えないこともないですが)。自動車業界に勤めている友人は、自分が開発に携わった車を買ったりしているので、そういうのは見ていて羨ましいと思います。なので私はTwitterなどで、自分が開発した機械をエゴサーチして情報を収集したりしてます。実際使われて役に立っているのを見つけるととても嬉しいですよ。厳しいコメントもありますが、真摯に受け止めて自分の設計にフィードバックしてます。

工作機械業界に興味があったら・・・

百聞は一見に如かず。もし工作機械業界に興味があったら実際に工作機械を見てみるのが一番です。あなたが住んでいる場所にもよりますが、工作機械の実機を見る方法はいくつかあります。

画像引用:日刊工業新聞ヤマザキマザック工作機械博物館MAZAK ARTPLAZA

工作機械見本市に行く

工作機械見本市といって、車で言えばモーターショーのようなものが毎年開催されています。製造業に携わっていない方でも、入場料を払えば入ることができます。(事前申し込みをすれば無料になったりするので、適時公式HPをチェックしてください。)

各メーカの新機種が展示してあり、加工も見ることができます。近年は、機械のみならずアプリケーションやシステムの展示にも力を入れており、各社工夫が垣間見えます。また、就活生向けのイベントや、社会人向けのものづくり講演会も開催されていますので是非ともチェックしてみてください。

JIMTOF(Japan International Machine Tool Fair)
ジムトフと読みます。2年に一度、東京ビックサイトで行われる国内最大の工作機械見本市です。

MECT(Mechatronics Technology Japan)
メカトロテックと呼ばれています。2年に一度、名古屋で行われる工作機械の見本市です。JIMTOFとは同年開催されず、JIMTOFとMECTが毎年交互に開催されています。JIMTOFに比べるとだいぶ規模は小さいです。

2022年は11月にJIMTOF2022が開催される予定です。ぜひともチェックしましょう。

工作機械のショールールに行く

ヤマザキマザックが運営するマザック工作機械ギャラリーが愛知県名古屋市にあります。小規模ですが、2台の工作機械が置いてあり、自由に見ることができます。機械の商談用ではなく、一般の方に工作機械を知ってもらおうというコンセプトのもと、解放されていますので気兼ねなく入れます。近くにはヤマザキマザック美術館もありますので、ついでに寄るのもいいかもしれません。

またブラザー工業の運営するブラザーミュージアムでも、ブラザー製の工作機械を見ることができます。ここも駅が近くアクセスが良いので、気になったら立ち寄るってみるとよいでしょう。

工作機械博物館にいく

岐阜県美濃加茂市に2019年に開館したヤマザキマザック工作機械博物館で工作機械を見ることができます。ここは世界でも珍しい工作機械に特化した博物館で、かなり珍しい工作機械からデゴイチやヘリコプターまで色々と展示してあります。私も開館してからすぐに行きましたが、面白かったです。非常に勉強にもなりました。製造業に携わってなくても楽しめる作りになっていますので、おススメです。

ヤマザキマザックからお金をもらっているんじゃないかというくらいマザック関連施設の紹介になってしまいましたが、シンプルにおすすめを紹介しているだけなので悪しからず。ヤマザキマザックは工作機械の認知度を上げて、この業界に入ってくる未来ある若者を増やそう。また、子供たちにものづくりに興味を持ってもらいたいなどという想いから、このような施設を作りPR活動を行っているようです。工作機械業界に勤めるものとしては、ありがたい限りです。

また、上述の博物館の他には日本工業大学の工業技術博物館も有名ですね。埼玉県にある大学付属の博物館で日本の産業技術の発展に貢献した代表的な工業製品が展示してあります。私自身、まだここには行けてないんですが、機会を見て足を運びたいと思っています。

まとめ

本記事のポイントは下記です。

・工作機械は"マザーマシン"と呼ばれてる。
・工作機械の精度を超える部品はできない = ”母性原理”
・日本の工作機械は世界をリードしている。
・業界全体としては規模が小さい。
・受注額は景気の先行指標と言われている。
業界のトレンドは、デジタル化、自動化、省エネ

何度も言いますが、工作機械は産業を支える大切な機械です。そして日本を代表する技術でもあります。本記事で、少しでもこの業界に興味を持っていただければ幸いです。

あなたが普段何気なく使っているものも、きっと工作機械が携わっているはずです。そして、その裏には、工作機械業界に関わる色々な人たちの汗と涙が詰まっているのです。ふとした瞬間、そんな縁の下の力持ち達のことを少しでも考えてくれたら嬉しいです。この記事がそのきっかけになることを願っています。

もっと工作機械業界のことを知りたいという方は下記の書籍を読んでみるとよいでしょう。この業界の深さを存分に堪能することができるはずですよ。

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就活生などで工作機械業界に興味のある方は、私宛に連絡をいただければ質問やアドバイスなどもできますので、気負わずお気軽にお問合せください!!

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