誰でもわかる”熱処理”の基礎の基礎

加工技術

人を厳しくしつけたり、鍛えたりするとき“焼きを入れる”という言葉を使うことがあります。焼きを入れられた人は、緩んでいた気持ちが引き締まり、より強い人へと成長するわけです。この”焼きを入れる”とは、元々は金属の熱処理から来ている言葉です。熱処理とは、金属を熱したり冷やしたりすることで金属が持つ性質を変える処理です。我々が普段手にする製品にも幅広く使われている重要な技術の一つです。”焼きを入れられた”金属は見た目は変わないのに、中身だけが更に強い金属へと生まれ変わります。まさに我々が例えで使う”焼きをいれる”という言葉のイメージと同じですね。温度を与えるだけで、金属の性質が変わってしまうなんて不思議な話ですよね。本記事では、そんな熱処理の話を誰にでもわかるように解説していきます。

 

熱処理とは



熱処理は「赤らめて冷ますこと」と定義されています。時代劇などで、刀鍛冶が真っ赤になった鉄をハンマーで叩いて、水につけるというシーンを見たことがありますよね。あれがまさに熱処理をしているところです。赤らめるとは、金属が温まって真っ赤になった状態で、冷ますとはそのままの意味でその金属を何らかの方法で冷やすことです。切削などの機械加工が”外”の加工なら、熱処理は”内”の加工と呼ぶことができます。

 

素材に熱を加えることで、金属内部を加工して、求めている金属の性質を引き出すのが熱処理の目的です。刀の例で言えば、鍛冶屋は刀を真っ赤に熱して、水につけることでより折れにくい硬い刀になるような”素材の力”を引き出しているわけですね。


私達が普段使っている車や自転車にも熱処理された素材が使われています。もし熱処理しなかったら、使っていくうちにどこかの部品が折れたり、磨耗したり、歪んだり・・・とさまざまな影響があります。私達が安心して機械を使えるのも、熱処理で部品の中までしっかり作りこんでいるからなんです。このように熱処理は、ものづくりにおいて重要な役割を担っています。

 

熱処理を行う上でのポイントは2つあります。

 

・何℃まで温めるか

・どのように冷やすか

 

です。この2つのポイントは“素材のどのような性質を引き出したいのか”で異なります。引き出したい性質ごとに熱処理の種類は分かれており、大きく分けると4つあります。

 

・焼き入れ quenching

・焼き戻し tempering

・焼きなまし annealing

・焼きならし normalizing

 

この4つの熱処理の詳細を説明していきます。ちなみに熱処理は英語で、Heat treatmentといいます。

 

熱処理の種類

熱処理は素材の種類により、細かい定義や手法が異なります。ここでは最も代表的な“鋼”を例にとって説明します。

焼き入れ

 

温度の与え方:変態温度まで加熱後、急冷

 

冒頭でも説明しましたが、言葉の例えで使われる”焼き入れる”の焼き入れです。

 

焼入れの目的は、”素材を強くすること”です。

 

決められた温度まで加熱した後、水や油などを使用し、一気に冷やす“急冷”を行います。これにより、素材は”強さ”や”硬さ”を得ることができます。決められた温度とは、変態温度と呼ばれる温度です。本記事では詳細な説明は省きますが、焼き入れを行うことでオーステナイトと呼ばれる組織がマルテンサイトという硬い組織に変化を起こします。この変化により素材は強さを得ることができるわけですが、この組織変化を起こすためにはある一定以上の温度に加熱する必要があります。それが変態温度です。

 

焼き入れは、この変態温度以上まで加熱し、急冷を行うことで組織を変化させて強さを得る熱処理です。

焼き戻し

 

温度の与え方:変態温度以下まで加熱後、空冷

 

焼き戻しは、焼き入れとセットで行われる熱処理です。名称だけ見ると”せっかく焼きを入れたのに戻してしまうのか?”と思いたくなりますね。でも必要不可欠な熱処理なんです。

 

焼き戻しの目的は、”焼き入れ後の素材をねばり強くすること”です。

 

焼き入れが終わった素材は、確かに強くなっているんですが非常に”不安定”でもあります。カッチカチなんです。硬くなっているんですが、脆くもなっています。ガラスをイメージしていただくとわかりやすいのです。ガラスは硬いですが、強く叩けば割れてしまうのは直感的にわかりますよね。それが”脆さ”です。焼き入れを行った素材は、この脆さも持っているのでそのまま使うことはできません。そこでこの脆さを除去し、粘り強く使いやすい素材にするため焼き戻しを行うわけです。

 

焼き戻しは、素材を変態温度以下まで加熱し、そこから空気中で冷やす“空冷”を行います。これにより、焼き入れで得た硬い組織(マルテンサイト)に変化が起きて、粘り強さを得ることができます。焼き戻しは、焼き入れ時に材料内に残った歪みや組織のムラを取り除く目的でも行われます。目的に応じて、高温焼き戻しや低温焼き戻しなどの種類があります。

 

焼き入れが終わった後の素材を”使える素材”にするために、焼き戻しが必要なんですね。焼き入れと焼き戻しは必ずセットで行われるため、2つの処理をまとめて“調質”と呼ぶこともあります。

 

焼きなまし

 

温度の与え方:変態温度まで加熱後、炉冷


焼きなましの目的は、”素材を柔らかくして加工しやすくすること”です。


焼鈍(しょうどん)とも呼ばれます。事前に焼きなましを行うことで、楽に素材を加工することができるようになります。切削加工に限らず、鍛造や引き抜きの前にも行われたりします。

 

「トレーニングをサボったら体がなまってしまった」ってことありますよね。マッチョな人でも、強制的に怠惰な生活をさせたら段々細くなっていきます。熱処理の世界では焼きなましで、強制的に素材を”なまらせる”ことで柔らかくします。

 

焼きなましでは、素材をこの変態温度以上まで加熱し、“炉冷”を行います。炉冷とは、熱を加える炉の中でそのまま冷やす方法で空冷よりも更にゆっくり冷えます。加工性向上に限らず、焼きなましにはさまざまな目的があります。

 

・素材内部の歪みの除去

・素材の組織を調整する

・素材中の不純物の拡散   etc・・・


本記事では割愛しますが、目的に応じた様々な焼きなまし方法があります。

 

焼きならし

 

温度の与え方::変態温度まで加熱後、空冷


上記で説明した焼きならしとよく似ていますが、違う熱処理です。(学生の時、ややこしいので名称を変えて欲しいと思っていました。)

 

焼きならしの目的は、”加工後の素材の組織を綺麗にすること”です。

 

焼準(しょうじゅん)とも呼ばれます。鍛造や圧延などといった素材の変形を強く変形させる加工を行うと
金属の組織が不均一になり、不安定な素材となります。これだと素材の本来の性質が損なわれてしまうわけです。焼きならしを行うことで不均一な組織を均等に”ならし”て、本来の性質の戻すことができます。

 

熱処理の理論

熱処理を理論的に理解するためには組織”“平衡状態図”を知る必要があります。難しい話なので本記事では、雰囲気だけ見ておきましょう。

 

フェライト、セメンタイト、パーライト、マルテンサイト、ソルバイト、オーステナイト etc・・・

 

組織の名前は色々ありますが、なんだかかっこいいですね。とても強そうです。学生のときは、ただただ覚えるのが面倒だと思っていましたがこうして改めて見るとなんだが厨二心がくすぐられますね。平衡状態図はその金属の温度ごとの状態を表した図です。熱処理を理解する上では必須の図ですが、まずはこういうもの小難しいものがあるんだということを知っておけばOKです。

まとめ

本記事の要点を復習しましょう。

 

・熱処理とは赤らめて冷ますこと

・焼き入れ、焼き戻し、焼きなまし、焼きならしがある

・焼き入れは、”素材を強くすること”

・焼き戻しは、”焼き入れ後の素材をねばり強くすること”

・焼きなましは、”素材を柔らかくして加工しやすくすること”

・焼きならしは、”加工後の素材の組織を綺麗にすること”

 

“焼き入れたろか”という言葉はありますが、”焼き戻したろか”という言葉がないのはなぜなんでしょうかね。説明したとおり、焼き入れと焼き戻しはセットで行われます。技術者たるもの生意気な後輩や部下に焼きを入れたら、しっかりと焼き戻しをしましょう。きっと粘り強く柔軟な人に育ってくれるはずです。でもパワハラは駄目ですよ。