夫婦で例える!!設計と現場のすれ違いアレコレ

機械設計

今回は現場と設計の間で起こる”すれ違い”をテーマに記事にしようと思います。私は工業高校出身で大学に進学したので、友達には進学せずに現場の最前線で働いている人も多いです。中には技能五輪の強化選手にもなった加工技術の卓越した人もいるのですが、そんな彼から言われたことがあります。

 

「うちの会社の設計者は馬鹿ばっかりだ、しぶちょーはそんな風になるなよ」

 

普段は物腰の柔らかい彼ですが、そのときばかりは強い口調だったので驚きました。その言葉には何か“信頼感の欠如“というか、“フラストレーション“というかそういった類の感情を感じました。彼が入ったのは、名だたる大企業。当然、そこの設計者が“馬鹿ばかり”なはずがありません。

 

ではなぜ、彼はそう思ってしまったのでしょうか。これは「うちの夫なんて、低収入だしロクに家事も手伝わないし、うんざりよ」という主婦の愚痴と同じ類の物だと思っています。設計と現場の間には一体どんなすれ違いがあるのか、私のこれまでの経験も踏まえて考察してみたいと思います。

 

現場と設計のすれ違い

 

 

いいよな、設計さんは。座ってパソコンいじっているだけで、お金もらえるんだろ。

 

現場はいいよなあ、何も考えずに決められたことだけやってれば、お金もらえるんだから。

 

 

当然、そんなことはありません。どちらの仕事も責任あり、共に大変なものです。なぜ、そんなすれ違いが起こっていしまうのか。それは簡単です。お互いが普段何をやっているのかわからないからです。俗に言うブラックボックスという奴ですね。隣の芝は青く見える、人のやっていることは良く見えてします(この場合、楽に見えてしまうものです)

 

私は現場と設計の関係は、“夫婦の関係”と全く同じだと思っています。本記事では仮に、設計が夫、現場が妻としましょう。生み出される製品はいわば、子供ですね。設計と現場の関係を家庭の話に置き換えて、両者の間に何が起こっているのか考えていきましょう。

 

いいよね、あなたは。仕事だけやってればでいいんだから。

 

いいよな、お前は。家事だけやってればいいんだから。

現場から見た設計

まずは“現場から見た設計の姿“を、夫婦に例えて考えていきましょう。つまりは、妻から見た夫の姿ですね。なぜ、設計者である私が現場から見た設計の姿を語れるかというと、業務の都合でここ半年間くらい現場に張り付いていたからです。様々な作業者にくっついて設計者に対する不平不満や愚痴を毎日聞いてました。単なる悪口は聞き流して、“なるほど“と思うものはメモして書き溜めました。その中から、どの会社でも共通で言えそうなことをピックアップしてお伝えします。

命令は絶対!?亭主関白

 

あれやれ、これやれと自分の都合だけで命令してくるのやめて欲しいわ。自分では何もやらないくせに。今時は亭主関白って流行らないわよ。こっちの意見には聞く気がないくせに、一方的に口で言ってくるだけで。もう嫌になっちゃうわ。

 

ものづくりの業務は、基本的にトップダウンです。上から下に指示が流れていきます。まず会社の命令・方針があり、それに従って設計が行われます。そして、設計の指示で、現場はモノを作ります。設計からの指示の中では、現場の都合を無視したものも少なくありません。しかし、現場はNOとは言う事は出来ず、しぶしぶ対応しなけばなりません。設計が現場の意見を聞き入れることもありますが

 

「納期がないから、今はこれで対応してください。次回から修正します。」

 

となってしまいがちです。設計者はコレで真摯に対応できたと思うかも知れませんが、現場から見ればこれは、ほぼゴリ押しに近いです。なぜなら、その瞬間は何の対応にもなっていないからです。

 

「電球が切れちゃったから変えて」と頼まれたとき、今は忙しいから明日やるよ。と言って、妻は納得するでしょうか?それと同じです。これはとにかく今は設計の指示に従え、という亭主関白そのものなのです。

 

設計側の対応策:

対応は後回しにせず、即時性のある暫定対策を行いましょう。簡単なものでも構いません。今、対応しようとする姿勢が大切なのです。

もっと事前に言えないの?事後報告

 

いつだって事後報告じゃない。もっと事前に連絡できないの?こっちもやらなきゃいけないことがたくさんあるから、急に言われたって無理よ。一言くらいあっても良いじゃない。

 

試作機や初品は特にそうですが

 

「ここ修正したのでお願いします」

「ここの部分に穴開けて対応してください」

 

と言った指示が設計から飛び交います。現場から見ると、そのような指示は遅いんです。もっと前に一言連絡してもらうだけでも、手戻りが無くてだいぶ作業が楽になったのに・・・ということが現場では頻発しています。家を帰る前に妻に連絡するがごとく、現場とは密な連絡が必要です。

 

もし「今日は同僚を連れて家に帰るよー、あと5分で家に着く」と連絡したら

 

「会社出るときとか、もっと事前に言えないの!?」とブチ切れ確定ですよね。それと一緒です。

 

このような現場での即席対応は、初品や試作品ではどうしても頻発してしまいます。ただ、それ自体は一回のみの作業なので、設計側はあまり現場の負担になると考えません。現場側がただただ苦労して、それが不信感やフラストレーションとして蓄積される負の貯金が貯まります。コレは本当に一言あるだけで違うものです。

 

設計側の対応策:

このご時世ソーシャルディスタンスは保ちつつも、密なコミュニケーションが必要です。こんなこともまで連絡する必要あるかな?まあ当日言えばいいかと思っても、小まめに連絡しましょう。

後でやっておくよ、量産変更やるやる詐欺

 

 

あなた、やってくれるって言ったじゃない。一体、いつになったらやってくれるの。いつもその場の返事だけは立派ね。結局やってくれないじゃない。あれもこれも最後に尻拭いしているのは私なのよ。

 

“量産変更やるやる詐欺”と言われると耳が痛い設計者も多いのではないでしょうか。騙すつもりはないので、詐欺と言われると不本意ですよね。しかし、現場からしてみれば直すと約束していたところが直ってないので、それは騙されたに等しいです。現場からの要望に、その場しのぎの生返事していませんか?

 

あのとき約束したじゃない!!えっ俺そんな事言ったっけ?

夫婦間のトラブルでもよくある、言った言わない論争です。大概は夫が忘れているだけです。

 

設計者は謝罪こそしますが、実作業を行って尻拭いするのはいつも現場です。設計は1回きりかもしれませんが、現場はその部品や機械を何年も、長ければ十数年作り続けます。設計が一回破った約束は、何百回分の裏切りに相当するのです。これは責任重大ですよ。

 

設計の対応策:

現場から受け入れ要望を忘れず対応する。ちゃんとメモなり記憶に残しましょう。要望は細かく数が多いのはわかります。設計的に都合が悪い要望もありますよね。しかし、すべては身から出た錆、あなたの設計です。全て取り入れる必要はありませんが、できないことはできない理由を添えてしっかりと対応しましょう。

困ったときのお小遣い?コストクレクレアピール

 

 

甘えてきたと思ったら、今度はお小遣い上げてくれ?ふざけるんじゃないわよ、ちょっとは努力して自分の収入をあげたらどうなの?

 

機械全体のコストが達成できないかも知れないので、何とか現場でコストダウンできませんか?お小遣いをせがむが如く、無理なコスト要求をしていませんか?サプライヤーに対してはもちろんですが、社内の現場に対しても無茶な要求をしてはいけません。現場もカツカツでやっているんです。

 

設計の対応策:

コストに関しては設計と現場の、歩み寄りが特に重要です。お小遣いアップ(コストダウン)が必要なら、設計側からその理由と現場で出来そうなコストダウン案も提示してあげましょう。現場の手柄となるような提案を考えてあげるのも一つの手です。

設計から見た現場

今度は逆に、設計者から見た現場を、夫から見た妻の目線で例えていきましょう。

子供が一番大切!! 家計無視の子育て計画

 

子供の将来が大切でなのはわかるけど、まだ小さいのにそんな高い英語教材を買う必要あるの?ちゃんと家計を考えてお金を使って欲しいんだけど。

 

当然のことですが、組立不良、加工不良で製品クレームが起きたら現場の責任です。そうならない様に、現場では対策を考えて、設計変更を要求します。ただ、品質向上の名の下にコストを無視した提案が上がってくるのも事実です。

 

品質は非常に大切ですが、コストも同じくらい大切です。お金がなければ、生産もできません。教育にお金をかけすぎて、日々の生活ができなくなってしまったら本末転倒ですよね。何事も過剰は良くありません、最適が重要なのです。設計者が上層部から受けるコストに関するプレッシャーは凄まじいものがあります。設計と現場が同じレベルのコスト意識を持って、仕事ができるのが一番ですね。

 

現場に一言:

難度も言いますがコストに関しては設計と現場の、歩み寄りが特に重要です。コストダウンはみんなを養うために取り組みです。製品原価の責任は基本的に設計が負っていますが、皆の財布だと思って、一致団結して頑張りましょう。品質のみならず、これはコストが上がるか下がるという視点でもモノを見てほしいですね。

添付資料完全無視!?まずやってみる精神

 

使い方は説明書に書いてあるんだからさ、封あけてわからなくなる前にちゃんと読みなよ。

 

現場の方はモノが大好きです。特に目新しいものは、すぐに手を付けたくなってしまう職人気質の方が多いです。説明資料などの細々したものは重要視せずに、まずやってみる精神を持っています。

 

「おい、設計さん。ここどうなってるんだ、すぐ現場に来てくれ。」

 

と呼び出されて、行ったのはいいが聞かれることは既に指示書に書いてあることばかり。いやいや、まず資料を読んで、わからなかったら呼んでくれよ。と思うことも多いです。一生懸命、組立図や作業指示書を作っても、見る習慣がなかったり、そもそも作業者まで指示書が行き渡っていないなんてこともしばしば。資料を読むより、設計者に直接聞いた方が早いですが、設計者も他の仕事を抱えています。添付資料はご一読願います。

 

現場に一言:

設計からの資料はしっかり読みましょう。ただし、現場では資料があるのかないのかわからない場合があります。設計側は、発行した資料が適切に作業者に行き渡るようにフォローが必要です。これを読んでくださいと念押しするのも良いでしょう。

それって仕事なの?井戸端会議

 

忙しい忙しいって言ってるけど、主婦同士集まって井戸端会議してるよね?その時間を短縮すれば、時間作れるんじゃないの?

 

現場に立ち会っていると、思いの外、雑談の時間が多いです。規定の時間外に突然始まるタバコ休憩や雑談時間が結構あります。ただ、これも一概には否定できず、必要なコミュニケーションであったり、そのコミュニティにおける雰囲気やルールや、各々の作業者の仕事のペースがあります。無駄だと一喝することも難しいのは事実ですね。雑談だと思って聞いていたら、組立方法の話をしていたなんてこともありますしね。

 

ただ、そのあとに場は忙しくて工数が足りないんだ。」と言われても説得力に欠けます。ダラダラ働いてるから時間ないんだろ、という現場的には非常に不本意な不信感にも繋がりかねません。程々が良いですね。

 

現場に一言:

井戸端会議はほどほどに。(まあ、現場に限らず、設計者でも唐突なたばこ休憩を取る人はいますが・・・)

まとめ

あくまでも、私の職場での体験に基づく話なので、全ての人に当てはまるものではないと思います。しかし、この記事で少しでも現場と設計の間の溝が埋まれば良いなと思います。現場も設計も真剣に働いているのに”すれ違う”ことがあるのは、価値観の違いがあるからです。これがまさに夫婦の関係なわけですね。

 

製造業では、基本的には下流工程である現場に全てのしわ寄せが行きます。設計者が思っている以上に現場の人達は大変であり、理不尽な目に遭っています。我々が知らない苦労が山のようにあるのです。設計者は、そう言った現場の状況を加味して、例え作業者に多少無茶を言われたとしても、その意図を汲んで真摯に対応することが大切です。

 

私の偏見かもしれませんが、作業者は要望を正しく伝えるのが苦手です。現場に言われるがまま対応しても、うまくいかないことも多いです。その要望の“本質“は何なのか。現場の作業者としっかりと向き合うことで、本質的な問題を汲み上げ、根本から解決する。そういう意識で取り組みましょう。

 

設計・現場がお互いに

 

こっちの都合も理解せず、好き勝手言いやがって

 

と思うこともあるでしょう。ですが、それは当たり前です。それぞれの事情があるのです。気持ちはわかるよーと、知った風な口を聞くことは簡単ですが、本当の理解などそうできるものではありません。自己啓発本として最も有名だと言われる著書「7つの習慣」の中の5の習慣にこんなものがあります。

 

まず理解に徹し、そして理解される。

 

これが大切です。何で理解してくれないんだ、ではなく、まず徹底的に相手を理解してみよう。そのスタンスこそ大切なんです。いがみ合うのではなく、歩み寄りましょう。寄り添って、製品を作っていくんです。製品(子供)もそんな両者の姿を見ながら、きっと立派に育っていくことでしょう。