ものづくり技術 コラム

すごいぞ!!クラウドファンディング発の工作機械

“クラウドファンディング“って言葉を聞いたことありますか?最近ではテレビやネットニュースなどでもこの言葉をよく聞くようになりましたよね。略して、“クラファン“なんて呼ばれたりします。簡単に言えば、インターネットを使った資金調達の方法です。クラファンを使えば

あー、こんなことがしてみたいな。こんなものを作りたいな・・・

と思った時、他の人からインターネットを通じて簡単に出資を募ることができるわけです。で、そんなクラファンがこの技術ブログと何の関係があるのか・・・ということですが、クラファンの仕組み自体は別に技術でも何でもありません。画期的ではありますが、仕組みは仕組みです。

私が面白いと思うのは、クラファンで支援者を募る“プロダクト“そのものです。こんなものを作りたい、アイディアはあるけど金がねえ!!という熱い思いを持った人が、さまざまなアイディアを出して支援者を募っているわけです。私は、これらのプロダクトを見るだけで“ワクワク“が止まりません。

設計者であれば、時代を先駆ける斬新なアイディアや製品に触れて、良い刺激を受けることはとても重要です。そう言った刺激を手軽に入手できるのがまさに“クラウドファンディング“です。少し本質とはズレているかもしれませんが、私は主にそういう用途で活用しています。

私が特に興味があるのはクラウドファンディングで生まれた工作機械です。というのも私は普段は仕事で工作機械の開発設計に携わっていて、個人の自由な発想で生まれた工作機械というものに強い関心があります。いつかは自分のオリジナルの工作機械を作りたい・・・なんてのは、工作機械の設計者であれば誰もが考える夢です。そんな夢みたいなことを現実でバンバンやっちゃってる人たちがいるわけですから、そりゃ見ないわけにはいかないでしょう!!

本記事では、そんなクラファン発の工作機械を私の独断と偏見で紹介していきます。

今後もクラウドファンディングの市場は拡大していくと予想されています。ものづくりに携わる人にとって、もはや無視できない分野です。何となくフワッとしたイメージで理解している人も多いと思います。せっかくの機会ですので、本記事でクラウドファンディング自体に関してもしっかり知識を付けていきましょう。まあ、かくいう私も詳しい内容は最近知ったんですけどね。私と一緒にクラウドファンディングがなんたるかを勉強していきましょう!!

クラウドファンディングって何?

まず、そもそもクラウドファンディングってなんだ?というところから説明していきます。そんなのわかってるよって人は本章はスキップして構いませんよ。クラウドファンディングという言葉の意味から見ていきましょう。

・クラウド(Crowd)・・・大勢、多勢
・ファンディング(Funding)・・・資金調達


シンプルに“大勢から資金調達をする“という意味ですね。何か新しいことを始めるためにお金が必要になった場合、通常は銀行から借り入れたり、投資家から出資をしてもらったりと少人数から大きい金額を調達するのが一般的です。一方、クラウドファンディングはその言葉通り、大勢から少額の投資を集める資金調達の方法です。

クラウドファンディングでは出資を募る人を“起案者“、投資をする人を“支援者”と呼びます。起案者は、インターネットを通じて不特定多数の人に支援を呼びかけることができます。もちろん支援者もインターネットを通じて、支援を行うことができます。資金調達や投資と聞くと、かなり物々しいイメージがありますが、クラファンではまさに募金感覚で手軽に支援することが可能です。

人のチャレンジに募金する余裕なんてねーよ!!

という気持ちも少しはあるんじゃないですか。結局はお金に余裕のある人の道楽だと思っていませんか?このようにクラウドファンディングを募金の延長線上か何かだと勘違いしている人が一定数居ます。それはクラウドファンディングに対して、誤ったイメージを持っています。もしそういう認識があるなら、ここで正しておきましょう。クラウドファンディングの形には、ざっくり分けて二種類あります。

・購入型クラウドファンディング・・・支援額に対してリターンがある。
・寄付型クラウドファンディング・・・基本的にリターンはなし。応援の意味合いが強い。

ものづくり分野に置いて、特に重要になるのは“購入型のクラウドファンディング“です。起案者は、こんなアイディアがあるから製品を作りたい。と支援を募ります。支援者は、お金を払って支援することでその製品自体をリターンとして受け取ることができます。

言ってしまえば、小規模な完全受注生産な訳です。起案者は在庫を抱えることなく、少ないリスクで製品を作ることができて、更にはユーザの反応を見ることができます。そこで反応が良かったり、メディアで話題になればクラファンでの実績を元に量産化に踏み切ると言った具合です。

支援者のメリットは、まだ世に出ていないアイディア製品をいち早く入手して試すことができるということです。市場に出ていない分、かなり尖った製品やチャレンジングな製品も多く、良い刺激を受けることができると思います。ただし、品質に対してはそこまで期待できないかもしれません。

かなりざっくりと説明してしまいましたが、クラウドファンディングには本当はもっと細かい種類分けがあります。下記の記事にわかりやすくまとまっていましたので、一読することをオススメします。

https://camp-fire.jp/crowdfunding


またクラウドファンディングで具体的にどんなガジェットが生まれているのかは、下記の記事にわかりやすくまとまっていましたので興味があれば読んでみると良いでしょう。


すごいぞ!!クウドファンディング発の工作機械

さて、ここからが本題です。そんなクラウドファンディングで生まれた工作機械達をざっと紹介していきますよ。

PocketNC-V2

画像引用:pocketnc.com

クラウドファンディング発の工作機械としては有名な機械です。工作機械設計者の視点で見ても、かなり本格的な同時5軸制御フライスと言ってよいでしょう。主軸が地面に対して水平になっている横形フライス盤というタイプですね。アルミなどの比較的柔らかい金属や、木材、樹脂などを削ることができます。価格は約50万円。


https://pocketnc.com/



もともとPocketNCという初期型の機械がクラウドファンディングで開発したものでこの"V2"はそれを改良したバージョンです。厳密に言えは、PocketNC-V2自体はクラウドファンディング発とは言えないかもしれませんね。初期型はこちらです。個人的には緑色の方が好きですね。


余談ですが、このPocketNC-V2のような軸構成の工作機械はGROBという工作機械メーカが得意としている形です。この形は工作機械業界の中でも結構トリッキーな形なんですよ。

https://www.grobgroup.com/jp/


SwissMak

画像引用:kicstarter

小柄ながら8本のツールが搭載可能なタレットと首振りヘッドを備えた複合旋盤です。価格は約51万円。チャック、ミルヘッド、タレットとこれだけの機能が詰まってこの価格ならかなり割安な感じがしますね。搭載している機能だけで言えば、工作機械メーカーが作っているミル機能付きのタレット旋盤とあまり変わりませんよ。これは凄まじいですね。


https://www.kickstarter.com/projects/1260359869/swissmak-the-mill-turn-center-for-your-machine-sho?ref=recommended&ref=discovery#


EVO

画像引用:kicstarter

主に木材の加工を目的とした卓上CNCフライス盤です。本記事を投稿した2021年2月27日(土)の時点でまだ支援を募っている段階ですが、既に目標金額を大幅に上回る支援が集まっておりプロジェクトとしては成立しています。アルミフレームを駆使した門形構造ですね。工作機械としてはオーソドックスな形です。

他のプロジェクトは5軸加工を売りにしている中、この製品の駆動はXYZ軸の3軸のみ。それ故に価格も低めで販売価格は36万円くらい。タッチスクリーンとキーパットを備え、ユーザビリティに対する配慮も伺えますね。


https://www.kickstarter.com/projects/mekanika/evo-the-evolving-cnc-milling-machine?ref=discovery&term=Evo


Abid

画像引用:kicstarter

アルミや鋼も切削可能な本格派の卓上CNCフライス盤です。クラウドファンディングでは、樹脂や木材などの柔らかい材料を削る工作機械が多い中、ガッツリ切削ができるCNC工作機械として登場ました。55万で販売予定でしたが、目標額の支援が集まらずプロジェクトとしては頓挫してしまったようです。非常に残念ですが、これがクラウドファンディングの厳しさでもありますね。

ガッツリ切削をしようと思うと、工作機械メーカが扱う分野と被ってきますからね。だったら、ちゃんとしたメーカ品で中古のフライス盤買った方が安心だっていう気持ちになるかもしれません。このあたりのさじ加減・・・難しいですね。

マシンの本体にはエポキシ樹脂を固めた素材を使う予定だったようです。これは、ヨーロッパなどで主に工作機械本体に用いられるミネラルキャスティングに近いものでしょう。実現すれば結構熱い製品だったのになあ・・・

https://www.kickstarter.com/projects/abdiautomation/abdi-a-small-desktop-cnc-mill-truly-capable-of-big-things


ミネラルキャスティングに関しては、下記の記事でまとめてありますので気になる方はぜひ読んでください。面白い素材ですよ!!


5AXISMAKER

画像引用:kicstarter

首振り機構を持つ同時5軸制御が可能な立形フライス盤です。主に発砲体や木材などの柔らかい材料を削ることが可能です。価格は少しお高めの88万円。本体は汎用のアルミフレームの組み合わせで駆動系はラック&ピニオン駆動っぽいですね。ミルヘッドをアタッチメントとして交換可能で、ヘッドをノズルに付け替えれば3Dプリンタに早変わり。マルチな用途で使うことができます。動画では三次元測定機としても利用可能できるような描写もありますね。この本体と駆動方式では高精度な測定は無理でしょうけど、簡易的な測定なら可能かも?

設計者目線で見ると、主軸から伸びたケーブルがワークに引っ掛かるのがすごく気になります。これだけは、なんともならなかったのかな?(笑)
私が言いたいことは動画を見ればわかると思います。この辺りにクラウドファンディングっぽい荒さが見えますね。


https://www.kickstarter.com/projects/2003668803/5axismaker-first-ever-affordable-5axis-multi-fabri


Micro Mill

画像引用:kicstarter

マイクロの名前からわかる通り、かなり小型のCNCフライス盤です。例によって、アルミなどの柔らかな金属や木材、樹脂といった材料の加工が可能です。外装もしっかりしていて、ちゃんとドアもある。ある意味、これまで紹介したどの機械よりも一番CNC工作機械っぽいかもしれませんね。

現在購入可能は分かりませんが、ファンディング中の価格は約10万円。このくらいのサイズ感のCNC工作機械が10万円以下だと言われるとちょっと“頑張って買ってみてもよいかも感”が出ますよね。人それぞれ、価値観に違いはありますが10万円を切ってくるとだいぶ印象が違います。

オフィスや部屋に配置されることを考慮して密閉性や静音性にも拘って作ってあるようです。切削を行うと、どうしても切粉が散らばります。個人で購入する場合、自分の部屋やガレージに機械を置くことになると思うのでちゃんと密閉してあるということは非常に重要な要素です。


https://www.kickstarter.com/projects/rp3d/the-micromill-a-desktop-cnc-milling-machine




如何だったでしょうか。こうやって見ていくと、日本生まれのクラファンCNC工作機械ってないんですよね。ちょくちょく探してるんですけど、出てきません。もし何か面白い情報知っている人がいれば教えてください。ちなみに、クラファン発ではないものの国産の卓上CNC工作機械はあります。長野県にあるオリジナルマインド社が製造しているKitMillシリーズです。


画像引用:オリジナルマインドHP

https://www.originalmind.co.jp/products/cnc


”誰でも楽しめる工作機械”というコンセプトがすごく良いですね。最も安いタイプのもので25万ちょっとなので、頑張れば手が届くかな?開発者の理念も非常に共感できる点があります。下記のリンクから読めるので、是非読んでみてください。

https://www.originalmind.co.jp/company/voice/


代表的なクラウドファンディングサイト

クラウドファンディングの起案・支援を行うことができるのがクラウドファンディングサイトです。分野に応じてさまざまなサイトがありますが、代表的なものを5つピックアップして紹介します。

Indiegogo

アメリカの大手のクラウドファンディングサイトです。2008年から始まり、クラウドファンディングの火付け役となりました。

https://www.indiegogo.com/


Kickstarter

Indiegogoと並ぶアメリカの大手クラウドファンディングサイトです。Indiegogoよりも後発で、2009年からサービスを開始したようです。先ほど紹介したクラウドファンディング初の工作機械たちもほぼ全てがこのKickstarteから生まれています。技術者なら要チェックのサイトです。

https://www.kickstarter.com/
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キャンプファイヤー

日本の大手クラウドファンディングサイトで、国内では最大手です。私が実際に支援者として使ったことがあるのはこのサイトです。

https://camp-fire.jp/


Readyfor

日本の大手クラウドファンディングサイトで、2011年3月に日本初のクラウドファンディングサービスとして誕生しました。

https://readyfor.jp/


Makuake

日本のクラウドファンディングサイトの一つです。町工場生まれのクラファン製品などはこのMakuakeに多い気がします。

https://www.makuake.com/


サイトによって取り扱う案件に特色がありますね。色々見回って、あなた好みのチャレンジを探してみてください。

私が感じるクラウドファンディングの最大の魅力は、さまざまなアイディアを見ることができるということです。クラウドファンディングが市民権を得たとはいえ、ほとんどの人は、“起案者“としてクラウドファンディングを使うことはないと思います。また、実際に“支援者“としてお金を払うのもごく一部の人だけです。

クラウドファンディングはその特性上、製品に関する説明や熱意、その発想に至った経緯などが事細かく書かれています。起案者は誰のどんな問題を解決しようと考えて、この製品を発想したのか。どんな工夫や技術を取り入れて製品にしたのか。そう言った製品の概要を見るだけで、十分な刺激になります。言ってしまえば、クラウドファンディングは“チャレンジャーの見本市“な訳です。

ものづくりに携わる人であれば、そのアイディアや熱意、ヴィジョンに触れること自体がとても大切な刺激になります。特に私のような機械設計者なら尚更です。皆さんもぜひ、そういう視点でクラウドファンティングを見てみると良いと思いますよ。

まとめ

本記事を復習しましょう。

・クラウドファンディングは、ネットで大勢から少額の資金調達をすること
・リターンのある購入型、リターンの無い支援型がある
・クラファン発のCNC工作機械は熱い
・クラファンは色々な人のチャレンジが見れる“チャレンジャーの見本市“


クラウドファンディングが普及したことで、アイディアを持った人がどんどん世の中に製品を出せる時代になりつつあります。これはすごい時代ですよ!!

私は3Dプリンタが世に出てきた時、"時代が変わるな"と強く思いました。それまでは、何らかの“形“を作り出すには、ものを作るための技能が必要だったからです。3Dプリンタは、その技能をショートカットして、技能を持たない人に“形“を作り出せる力を与えました。これにより技能を持つ人ではなく、アイディアを持つ人が活躍できる時代になったと思います。

そしてこのクラウドファンディングの登場です。今まで投資家や銀行からお金を借り入れリスクを負わなければできなかったようなチャレンジが、誰でも簡単に、かつ低リスクで何度でもできる時代になりました。もはやチャレンジに必要なのはアイディアと熱意だけです。

現代の日本においては「個人の力」が注目されるようになってきたと思います。会社員の一人としてのあなたではなく、個人としてあなたにどのような能力や価値があるのかが問われる時代です。そして、そのあなた個人の価値や能力を発揮する場は様々な形で整いつつあります。YouTube、Twitter、TikTok、Note、ブログ、etc・・・

例を挙げればキリがありませんが、その中の一つがクラウドファンディングだと思います。世の中の流れは、あなたから“できない理由“を取り去ってくれています。

誰もが聞いたことがある有名な歌の一節に

あんなこといいな、できたらいいな♪

という歌詞がありますよね。もはやその願いを叶えるのは、ドラえもんではなくあなた自身なのです。最後に私の座右の銘である本田宗一郎さんの言葉を紹介して、結びとさせて頂きます。

「何かにチャレンジして失敗することより、何もしないことを恐れよ」

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