材料 機械要素技術

実務で役立つ"炭素鋼"の基礎

金属材料の中で最も使われることが多い材料が“鉄“です。世の中にある部品や機械の約90%は鉄であると言われています。故に、ものづくりにおいて“鉄“のことをしっかりと学ぶことはとても大切なことです。ただ一口に“鉄“といっても、種類は多岐にわたります。本記事では、そんな鉄の中でも最も使われる比率の高い“炭素鋼“についてまとめてみようと思います。

これから材料を学ぶ学生、もしくはこの春から社会に羽ばたく新人設計者の諸君は必見ですよ。まず、本記事を読んで“鉄“についての体系的なイメージを固めておきましょう。なんとなくフワッとしたイメージだけでも頭に入れておくと学習や実務の助けになるはずです。

材料について初めて学ぶ方は、本記事を読む前に下記の記事を読むとより理解が深まるはずです。もしお時間あればご一読ください。

では、早速いきましょう!!

鉄の種類を学ぼう

鉄は金属材料の中でも最もメジャーな材料です。しかし、鉄が鉄のまま使われることはほぼありません。なぜなら純粋な鉄は柔らかすぎて全く実用に向かないからです。このような純粋な鉄は、“純鉄”と呼ばれます。この純鉄を実用に適した性質に変える為に、様々な処理が行われ、我々が普段目にしている機械の材料へと作り替えらるわけです。

このように性質を変えるための処理が加えられた鉄を“鉄鋼材料“と呼びます。鉄鋼材料は、処理の方法で大きく3種類に分けることができます。

・炭素鋼・・・・炭素を加えることで物性を調整
・合金鋼・・・・他の金属を混ぜ合わせて物性を調整
・鋳鉄・・・・・製鉄の過程で生まれる鋳造用の鉄

"炭素鋼"は、鉄に炭素を加えた鉄鋼材料です。その炭素含有量で物性の調整を行います。一般的に鉄といったら、この“炭素鋼“のことを指すと言ってもよいでしょう。ちなみに、鉄に加える成分は炭素の他にもシリコン(Si)、マンガン(Mn)、リン(P)、硫黄(S)などがあり、炭素(C)を含めてこれらを5大元素と呼びます。覚えておきましょう、テストに出るかもしれませんよ!!

それぞれの元素の役割は下記の通りです。

・炭素(C) ・・・・・強さと硬さの向上
・シリコン(Si) ・・・降伏点と引っ張り強さの向上
・マンガン(Mn)・・・粘り強さの向上と焼き入れ性の向上
・リン(P) ・・・・・低温化での靭性の低下
・硫黄(S) ・・・・・高温化での靭性の低下

とにかく炭素の影響が支配的なので、その他の元素は補助的な役割として材料ごとにブレンドされます。リンと硫黄は、鉄にとっての有害な成分で物性を低下させる働きをします。できるだけ含有率は低い方が好ましいです。元素の添加に関しては各材料メーカーのノウハウもありますので、まず材料を見るときはとりあえず炭素量に注目すれば良いと思います。

これらの5大元素とは別に、さらにクロム(Cr)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)などを混ぜ込んだ鉄鋼材料のことを"合金鋼"と呼びます。本記事では割愛しますが、5大元素だけでは変化させることのできない性質を他の金属をブレンドすることでうまく変化させるのが合金鋼です。非常に高性能な材料あり、日々新しい材料が開発されています。ただし、その分コストも高くなる傾向もあります。

“鋳鉄“は鋳造用の材料として使われる鉄鋼材料です。鋳造とは、金属を溶かして専用の型に流し込んで成形する方法で、鋳鉄はその鋳造に用いられる専用の材料です。とても多くの炭素を含んでいて、溶融温度(材料が溶ける温度)が低いのが特徴です。鉄鉱石から鉄を製鉄する過程で生まれます。

さて・・・鉄鋼材料のざっくりした概要が掴めたところで、ここからは炭素鋼のことを少し深く学んでいきましょう!!

炭素鋼ってなんだ?

鉄の性質に最も影響を与えるのが炭素です。鉄の性質は“炭素の量“で決まるといっても過言ではありません。鉄鋼材料は炭素の量で4つに分類されます。

・純鉄(じゅんてつ) ・・・炭素量0〜0.2%
・軟鉄(なんこう)  ・・・炭素量0.02〜0.3%
・硬鉄(こうこう) ・・・炭素量0.3〜2.1%
・鋳鉄(ちゅうてつ) ・・・炭素量2.1〜6.7%

基本的には炭素量が多いほど強くて頑丈な鉄鋼材料になります。具体的には強度““硬さ“が向上していきます。材料の変形のしにくさを表す“剛性“は、炭素の量とは関係なく鉄鋼材料であれば全て同じです。

炭素量が2.1%を越すと材料の性質が大きく変わります。これが硬鉄と鋳鉄の境目です。基本的に炭素鋼と呼ばれるのは、炭素量が2.1%までの材料のことです。これは重要なので覚えておきましょう。ちなみに、炭素量が6.7%以上になると材料が非常に脆くなるため実用には耐えられません。

もう一つ重要な境目が炭素量0.3%です。これは軟鋼と硬鋼を分ける境目ですが、焼入れ性と溶接性の目安でもあります。炭素量が少ないと材料に焼きが入らず、炭素量が増えるほど焼入れの効果が上がります。炭素量0.3%以下の材料に"焼入れ"を施しても、ほとんど効果は得られないということです。

溶接においてもこの0.3%が重要です。炭素量が0.3%以下の材料であれば溶接は容易ですが、それ以上の炭素量になると溶接時の熱で材料に“焼き“が入ってしまうため、溶接が難しくなります

炭素鋼は具体的には、SP材、SS材、S-C材、SK材などがあります。一つずつ簡単に紹介していきますのでざっくりとしたイメージを掴みましょう。

SP材(圧延鋼板)

SP(エス・ピー)材は、圧延鋼板と呼ばれる材料です。SPはそのままSteel Plateの略です。わかりやすいですね。炭素量は0.15%以下炭素鋼の中で最も軟らかな材料です。その軟らかさを活かして薄い板材料として使用されます。大きく分けて冷間圧延鋼材のSPCと、熱間圧延鋼材のSPHがあります。

SPH(Steel Plate Hot)・・・高温で引き伸ばされた鋼板。熱間圧延を行うため、材料の加工硬化が起こらず、非常に良い加工性を保っている。ただし、表面精度は良くなくボコボコとした手触りとなる。

SPC(Steel Plate cold)・・・常温で引き伸ばされた鋼板。冷間圧延を行うため、加工硬化が起こるり、材料が硬くなり少し加工性が落ちる。ただし、表面精度は非常に良くツルツルとした表面に仕上がる。

材料を表すJIS記号はSPCC、SPHCなどです。材料の製造法を表すSPCやSPHの後にもう一文字追加されます。最後の一文字はC、D、Eが付き、それぞれC(一般用)、D(絞り用)、E(深絞り用)などです。

SS材(一般構造用圧延鋼材)

SS(エス・エス)材は、一般構造用圧延鋼材と呼ばれる材料です。SSは、Steel Structureの略です。炭素量はおおよそ0.15〜0.2%非常に安価であり入手性が良い材料です。鋼板、丸棒、形鋼などとにかくバリエーションも豊富、まさに一般の名にふさわしい汎用性の高い材料ですね。

私も機械設計業務で使用する材料材料は、このSS材か後述のS-C材がほとんどです。加工性、溶接性ともに良好で非常に扱いやすいのが特徴です。ただし、圧延により内部応力を蓄えているので、表面を加工したりすると応力が解放されて材料が反ってしまうことがあります。加工面の精度が必要な部品には向きませんので、なるべく表面は加工を入れず構造物の一部として使用するのが良いでしょう。また、炭素量が少ないため基本的に焼きは入りません。

材料を表すJIS記号はSS330、SS400などです。SSに続く3桁の数字が、材料の最低引張り強さを表しています。

S-C材(機械構造用炭素鋼鋼材)

S-C(エス・シー)材は、機械構造用炭素鋼鋼材と呼ばれる材料です。Sは、Steel、CはCarbonの略です。中央のハイフン部分には、炭素量を100倍にした数字が入ります。代表的なもので言えば、炭素量0.45%のS45Cなどがあります。JIS規格上では、炭素量0.1%〜0.58%のものまで20種類程の種類がありますが、S45CとS50Cが最も良く使用されます。私も10年近く機械設計をやってきましたが、S-C材ではS45CとS50C以外のものを使ったことがありませんね。

S-C材はSS材に次いで、良く使用される材料の一つです。加工性も非常に高く、精度が必要な部品などにも安心して使用できます。炭素量が0.3%以上のものであれば、焼入れ効果もあります。ただし、溶接性が落ちますので、その点は注意が必要です。

材料を表すJIS記号はS45C、S50Cなどです。なぜSS材のSS“400“のように最低引張強さのような強度で表記せずに、炭素量で表記するかというと・・・それは焼入れにより機械的性質が変わるからです。強度で表すのが難しいので、炭素量で表す表記になっているんですね。

学校で材料の勉強をしているときは、「なんで材料ごとに表記を統一しないんだよ!!覚えにくいなーもう(怒)」とイライラしていましたが、こういう理由を聞けば割と腑に落ちますね。それでも、もうこの種の材料の表記って少しわかりやすくならないかなーとは思ってしまいますが・・・(笑)

SK材(炭素工具鋼鋼材)

SK(エス・ケー)材は、炭素工具鋼鋼材と呼ばれる材料です。炭素量は0.6〜1.5%と鋼の中で最も多い材料です。SはSteel、KはKouguのKでSK材です。なんで工具(Kougu)だけ日本語なのかは謎ですが・・まあこれはそういうものだと思ってください(笑)

SK材は、工具鋼と名前が付くだけあって、硬さと耐摩耗性に優れる材料です炭素量0.3%以上から焼入れ性が向上しますが、炭素量0.6%で焼入れ性の向上効果は頭打ちになります。その代わり、0.6%より炭素量を増やしていくと耐摩耗性が向上します。その性質を生かして、工具に良く使用されるので工具鋼と呼ばれます。ただ、使用箇所は工具に限定する必要はなく、硬さや耐摩耗性が必要な箇所には使用できます。一般的な入手性やコストはSS材やS-C材に比べるとだいぶ劣ります。加工性や溶接性も劣るため、扱いにくい材料でもありますね。

具体的には、ノコギリはハンマーなどといった手工具に良く使用されます。SK材の弱点は、高温になると焼きが戻り、硬さが低下してしまうことなので、発熱の大きな箇所に使う工具には向きません。そいうった箇所にはSKH(高速度鋼)などの合金鋼を使用します。合金に関しては、後日別記事にて解説しようと思っていますので、今はそんな材料もあるんだー程度の認識でOKです。

材料を表すJIS記号は、SK95、SK140などSKの後に炭素量を100倍にした数字が付きます。強度で表さない理由はS-C材と同じ理由ですね。

まとめ

本記事の内容を復習しましょう。

・鉄を実用できる性質に調整した材料を“鉄鋼材料”と呼ぶ
・鉄鋼材料には、炭素鋼、合金鋼、鋳鉄がある
・鉄の5大元素は炭素、シリコン、マンガン、リン、硫黄
・炭素量0.3%が軟鉄と硬鉄の分かれ目で焼入れ効果の分岐点
・炭素鋼にはSP材、SS材、S-C材、SK材などがある

設計実務に置いて、材料選定は極めて重要です。ただ、一度社会に出てしまうと材料のことを体系的に学ぶ機会もあまりないんですよね。細かい話は抜きにしても、それぞれの材料のざっくりしたイメージを掴んでおくだけで、だいぶ役に立つとは思います。

学生のときは、材料物性ばかりに目が行きがちでした。しかし、一度、社会に出ると材料の“コスト“や“加工性“もかなり重要なファクターであると気づきます。これは教科書だけでは、なかなか学べない部分なんですけどね。特にSS材の項目で書いた“反り“の話などは良い例です。設計をするためには、材料の加工性をしっかり理解して図面を書く必要があるということですね。これは機械設計の奥深さの一つでもあります。私もまだまだ勉強中の身、材料のことは勉強すればするほど“もっと深い知識が必要だな“と痛感します。これからも本ブログを通して、皆で一緒に勉強していきましょう!!

今回は、炭素鋼についてまとめましたが、次回は合金鋼、非鉄金属材料、非金属材料の話もまとめていこうと思います。もし本記事を気に入って頂けたのなら、また次回も読んでくださいね、よろしくお願いします!!

本記事で何度も焼入れ性の話が出てきましたが、過去記事で熱処理についてまとめた記事もありますので、そちらも見ていただけると更に理解が深まると思いますよ。

本記事を書く上で、参考にした書籍を紹介します。”加工材料の知識がやさしくわかる本”です。タイトルの通り、かなり優しく材料のことが解説されているのでとっつくやすくてオススメです。学術的というよりも実務寄りの内容なので、「機械設計初心者」や「復習がてらもう一度材料の事を学びたい人」にはうってつけですよ。機会があれば手に取ってみてください。

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材料の基礎知識も下記の記事にまとめてありますので、是非とも合わせてお読みください!!

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