設計失敗学 コラム

ミスを減らすために大切な事って何なの?

「人は間違える生き物」

 

なんて言葉をよく耳にしますよね。どんなに立派に見える人にだって、必ずミスをしてしまうものです。だからといって、ミスしたことをいちいち気に病んでいたらキリがありません。しかし、ミスは少なければ少ない方が良いのもこれまた事実。皆さんは、普段の生活・仕事においてミスを減らすためにどんなことを心掛けていますか?

 

ミスしないように注意しよう!!

 

という意識だけでは、ミスはなかなか減りません。本記事では、私がこれまでに実践してきて効果があった“ミス削減対策“を紹介します。ミスに悩むそこのあなた、もしかしたら良いヒントになるかもしれませんよ!

ミスとハインリッヒの法則

最初に言っておくと、私は結構ミスが多い人間です。自称“キングオブケアレスミス“です。威張って言うようなことではないんですけどね。「いやいや、自覚があるなら注意しなよ」というのは全くもってその通り。しかし、普段から意識して気をつけようとしているはずなのに、何故かミスしてしまうんですよね。ブログ記事やTwitterの投稿でも未だに“誤字・脱字“があります(これも、かなり気をつけているんですけどね)。少し気を抜くとすぐに細かいところでミスが出てしまうのです。

 

一つ私の失敗談をお話ししましょう。

 

私は仕事においても、資料の誤字脱字、図面の寸法確認漏れなど・・・細かい部分のミスが多く、上司によく注意されていました。ただ、私は仕事を始めたばかりの頃は、偏った情熱を持っていたため、「細かい部分などどうでも良い」と考えていました。

 

大切なのは、革新的であるかどうか、挑戦心あふれる設計ができているかどうかなんだ。

 

と燃えていたのです。構想計画の提案などに、とにかく力を入れました。新しい形、新しい構造・・・それを考えることこそが設計の仕事の全てであると思ってました。そして、その熱意は評価されて、それなりに上司からも認めてもらえるようになりました。それが嬉しくて、どんどん調子に乗っていきます。

 

“多少誤記があったところで、モノが作れなくなるわけじゃない“

“自分の時間は、もっとクリエイティブなことに使うべきなんだ“

“細かいところなんて、後からいくらでも直せる“

 

と考え、細かい部分のチェックを怠って、めんどくさい仕事は避けるようになりました。今考えれば、苦手なことをしたくないだけの言い訳だったかもしれませんね。その結果、大きなミスを起こしました。部品の取り付けピッチを間違えたのです。これだけ聞けば、設計者にとっての"あるある”のミスかもしれません。しかし、条件が悪かったのです。

 

・取り付けたい部品は主要な購入品であり、修正ができない

・取り付く側の穴ピッチのズレは数mmで、加工で修正もできない

・2t弱の大物鋳物であり、作り直しが難しい

・納期が迫っており、すぐに対応しなければならない

 

 

 

結局、2t弱の鋳物をもう一度作り直して修正することになりました。納期もダダ遅れで多くの人に迷惑をかけましたし、会社が被った損失額で言えば100万円以上でしょう。今思い出しても、こう・・・気持ちがキュッとしますね。高いところから落ちそうになった時の、“タマヒュン”現象に近いものがあります。

 

この事例で何が言いたいかというと、結局のところ

 

細かいミスをする奴は、必ず大きいミスを引き起こす。

 

ということです。これは"ハインリッヒの法則"からもわかります。知らない人のために解説をすると、ハインリッヒの法則は労働災害の分野でよく知られる法則です。事故の発生についての経験則で、1件の重大事故の背後には、軽微な事故が29件、そして事故に至らないが危なかったという異常(ヒヤリハット)が300件隠れているという法則です。1:29:300の法則とも呼ばれます。

 

 

このハインリッヒの法則が示す教訓は、重大な事故を防ぐためには、普段起きるヒヤリハットを減らすことが重要であるということです。これはそのまま、ミスの話にも当てはまります。重大なミスと誤字・脱字などの軽微なミスの割合は1:29:300であり、軽微なミスを減らすことが重大なミスを減らすことが繋がるのです。

 

上記のミスを起こして以来、海よりも深く反省してとにかく“細かいミスを減らす取り組み“を行ってきました。少し前置きが長くなりましたが、キングオブケアレスミスの私が実際に取り組んでみて、効果があったと思えるミス削減の取り組みを紹介します。

私のミス削減の取り組み

 

最初のうちは

 

とにかく細かいところまでチェックするんだ。

 

という意気込みだけで、がむしゃらに自分の資料を見直しました。でも、どんなに細かく見直してもやっぱり見落としがあるんですよ。チェックする項目も無限にあって時間がかかるし、やる気があっても全く改善していかない空回り状態でした。そこでまずは、“自分はどんなミスをどれだけしているか“を調べてみようと思い立ちました。

ミスを分析しよう~ミスの見える化~

やることはシンプルでミスをしたら、どんなミスをしたかメモする。ただ、それだけです。そのかわり、どんなに細かいミスでも記録に残します。それをエクセルにひたすら書き溜めていくという取り組みをして、“自分は何が苦手なのか“を客観視しようと思ったわけです。しばらく書き溜めていくと、気がついたことがありました。

 

なんか同じ種類のミスをしているなぁ」

 

色々なミスをしているように見えて、実は同じような種類のミスをしているんです。すなわち、これが自分の苦手なことなのです。具体的に例を挙げるなら、多かったミスは漢字の誤変換と、数字の入力ミスでした。資料を見る時、ここだけに集中してチェックするようにするだけでも、ミスの数は劇的に減っていきました。

 

設計に関しても、細かいミスや起こした不具合を全て記録してまとめます。最終的には書き溜めたミスを種類ごとに整理して、セルフチェックシートを作りました。(実際に私が自分のミスをまとめて作ったチェックシートを添付します。参考まで)

 

チェックリスト_参考

 

重大なミス、発生回数の多いミスに色をつけて、特にその項目を注意するようにすると使いやすかったです。これは本当に“活きるチェックシート“ですよ。職場であらかじめ準備された形式的なチェックシートとは訳が違います。成したチェックシートそのものよりも、ミスを分析してチェックシートを作成する過程の方が大切だと感じましたね。

 

・自分のミスを全て書き出す

・種類ごとにまとめて、セルフチェックシートを作る

 

自分はミスが多いと思っている人は、是非とも取り組んでいただきたいです。問題点を明確にする、自分のミスを俯瞰して見ることで必ず気付きがあるはずです。あなたの能力向上に絶大な効果を発揮すると約束します。今回の記事で一番伝えたいのは、にかくこの取り組みめっちゃいいよってことです。ミスを書き溜めるのは時間がかかりますが、やる価値はありますよ!!

決断・判断の回数を減らそう

ミスを発見して修正することも大切ですが、そもそものミスの回数を減らすことができたらベストですよね。そんな魔法のような方法・・・あります!!

 

人はいつミスをすると思いますか。それは“判断・決断“をした時なのです。つまり、判断回数を減らすことによってミスを削減することができます。情報の出所はわかりませんが、人は1日に約35000回の決断・判断をしていると言われているらしいです。そして、人が1日にできる判断回数の上限は決まっており、それを超えると判断の精度が鈍り、ミスをするようになります。“判断パワー”みたいなものがあって、判断をする度にそれがジワジワ減っていくという感じですね。その日1日が終わるまで、その“判断パワー“は回復しません。ロールプレイングゲームで言うところの、マジックポイントみたいなイメージですかね。

 

つまり、なるべく無駄な判断をしないように心がけ“判断パワー“を温存して、ここぞという時に使うというのがミス削減のポイントなんです。例えば、何か仕事を進めていて

 

次何やるんだっけ?

あっそうそう、これをやるんだった。

 

ってふと思考が止まることがありませんか。実は、これだけでも貴重な判断パワーを無駄にしているんです。事前にやるべき項目と処理する順番を決めていれば、この迷いって無くせると思いませんか。相当特殊な仕事でない限り、仕事には特定のパターンがあるはずです。パターンがある仕事は、徹底的にルーティン化して判断回数を減らして行えるようにします。

 

私が具体的に行なっているのは下記の二つです。

 

(1) 朝、出社したらその日の何時になんの業務をこなすのか、全て決めて書き出す

(2) パターンが決まっている仕事は、順序を書き出して印刷して手元に置く

 

この2つで“次何やろう“という判断を減らすことができます。

 

(1)は実践している人も多いかもしれませんね。その日に行う業務を、時間毎に割り当てておくだけで業務の効率も上がります。当然、突発的な仕事が入ってきて予定通り行かないこともありますが、その時は日程を更新すれば良いだけの話です。次に何をやるか、その場その場で考えるより朝に判断をまとめた方が良いです。時間の区切り方は、好みですが個人的には1時間刻みくらいがオススメですね。あまり細かく区切っても、逆に手間ですから。私はこの取り組みをかれこれ、7年くらい続けています。

 

余談ですが、この取り組みをすると過去の何月何日の何時になんの仕事をやっていたか振り返ることができます。まあそれ自体にはなんの意味もないんですけどね、でも地味に凄くないですか?ちょっとした日記みたいになって、楽しいですよ。

 

 

 

 

(2)は意外とやっている人は少ない印象です。特定のパターンをこなすだけの業務は、“次に何をやるか“をあらかじめどこかに書いておけば、その度に判断する必要はなくなります。紙を見ればいいだけですからね、わざわざ脳の容量を使う必要はありません。書き出すことで、今まで気がつかなかった無駄に気がついたりもできます。“もっと効率的な手順はないのか、この作業はそもそも必要なのか“といったことを考えるキッカケにもなります。

 

私が完全にルーティン化しているのは、出図処理、購入品の伝票処理、出張費の申請処理などですね。生産性が低いけど、やらなければならない仕事です。結構ありますよね、そういう仕事。そういうものには、判断パワーを使わないようにするのが良いですよ。そうすれば、本当にやるべき仕事で力を発揮することができるはずです。

 

世界的に有名な経営者も、判断回数には気を使っています。代表的なのはスティーブジョブスですね。ジョブスといえば、お馴染みの黒のタートルネックとジーンズ。服はそれしか着ないと決めて、何十着も同じ服を持っていたんだとか。これも“服を選ぶ“という無駄な判断な減らして、本当に力を注ぐべきことに集中できるようにするためなんです。それほどに、判断というのは脳のエネルギーを使うんですね。

 

ちなみに、私もそれを真似して毎日同じ服を着ようとしたこともありましたが、洋服で個性をだしたいという気持ちもあって続きませんでした。ただ、取り組んだ中でも、すべての靴下を同じ種類にするというのは“アリ“でしたね。これだけは、今だに継続しています。多くの人がやっていることのようですが、これはかなりオススメです!!

 

片側がなくなっても問題ない、洗濯のたびに靴下神経衰弱をしなくて良いなど、合理的です。是非取り組んでみてください。靴下だったら毎日同じでも飽きないですしね。

 

まとめ

 

本記事のまとめです。

 

・重大なミスと軽微なミスの関係は1:29:300(ハインリッヒの法則)

・軽微なミスを減らすことで、重大なミスを減らせる

・ミスを減らすためには、ミスの分析が大切

・ミスを減らすためには、判断回数を減らすことが大切

・靴下は全て同じ種類にすると合理的

 

ミスが多いと自覚がある方で、少しでも興味を持っていただけたなら、是非とも明日から始めてみてください。何事も実践が大切ですよ。ちなみに"ミス"と"失敗"の違いはご存知でしょうか。諸説ありますが、私がしっくり来た説明は下記です。

 

ミス・・・できるはずなのに、間違ってしまったこと。

失敗・・・チャレンジの結果、成功しなかったこと。

 

ミスを減らすことは大切ですが、失敗を減らすことはまた違います。失敗を減らそうと思うと、必然的にチャレンジが減ってしまいますよね。なので、ここは棲み分けて考える必要があります。私たちが減らすべきは、“できるはずなのに間違ってしまったこと“なんです。

 

ただ、こうした仕事改善の活動は、忙しい毎日の中ではなかなか取り組めないものです。しかし、あなたは気がつかなければなりません。仕事が忙しいから、仕事改善の活動ができないという矛盾に。有名な例え話で“きこりのジレンマ“という話があります。

 

 

日々忙しい中で、より良い仕事をこなす為には刃を研がなければならないのです。忙しいから改善できないというのは、この哀れな木こりと一緒ですよ。本記事では私なりの刃の研ぎ方を紹介しました。そうです、今こそ刃を研ぎましょう。この記事が、あなたが刃を研ぐきっかけになれば幸いです。

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