家庭用の3Dプリンタの価格は年々下がっており、安いものでは1万円程度でも手に入るようになってきました。私自身、3Dプリンタには興味があるものの、なかなか購入に踏み出すことができず、いつか買えたらいいなー、くらいに思っていました・・・が、ついに決心しました。
3Dプリンタを買おう!!
というわけで、本記事では3Dプリンタを購入するために調べたことをまとめてみました。同じように3Dプリンタの購入を考えている方、また3Dプリンタに少しでも興味がある方にも参考になると思います。
そんじょそこらのアフェリエイトブログとは訳が違いますよ。何故なら、この記事で選んだ3Dプリンタを私が買うからです。
最初に言っておくと、この記事内では3Dプリンタの具体的な機種については、あまり多くは紹介はしません。星の数ほど種類があるし、実際に使ったことがないものを紹介してもあまり意味がないからです。どちらかというと、3Dプリンタの概要、歴史、選び方にフォーカスして説明してきます。
では、さっそく行きましょう。
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3Dプリンタって何だ?
3Dプリンタとは、ご存じの通り3D形状を印刷できるプリンタの事です。この3D形状を印刷する技術の事を専門用語ではアディティブマニュファクチャリング(Additive Manufacturing:以下AM)と言います。
Additive:付加的な
Manufacturing:製造
という意味で、日本語でいえば三次元積層造形技術です。
少し話は反れますが、機械加工は分類すると“除去加工”、”塑性加工”、”付加加工”の三つに分けることができます。除去加工は工作機械などで行われる一般的な加工です。まず材料があり、不要な部分を加工で削り取っていきます。塑性加工は、力を加えて材料を塑性変形させる加工です。付加加工は、材料に対して、更に材料を盛り付けていくイメージです。除去加工とは真逆の概念ですね。AMはこの“付加加工“に分類され、近年大きな注目を集めています。
AM技術は広義の意味では、三次元積層造形技術の総称であり、積層する材質は問いません。しかし、一般的にAMと言えば、金属の三次元積層造形技術を指す場合が多いです。金属の三次元積層造形技術に興味がある方は、過去記事でまとめていますので是非読んでみてくださいね。
さて、話を戻しましょう。近年大きな注目を集めている3Dプリンタですが、実は結構昔からある技術なんです。最初に3Dプリンタが登場したのは、1970年頃であり、そのころは3Dプリンタではなく、ラピッド・プロトタイピングと呼ばれていました。その名の通り、試作品の3D形状を素早く製作して確認するために用いられており、製品の開発費用と開発期間を大幅に削減するために一役買っていました。
では、1970年頃からあるはずの3Dプリンタの技術が、なぜ近年になって流行り始めたのでしょうか?
それはある一つのプロジェクトがきっかけになっています。それが、レップラッププロジェクトです。
2009年にストラタシス社という会社が保有する3Dプリント技術の特許が失効になりました。この特許の失効を見越して、2005年にイギリスのバース大学のエイドリアン・ボイヤ氏がレップラッププロジェクを立ち上げました。レップラップとは
Replicating (複製する)
Rapid-prototyper (3Dプリンタの古い呼び名)
の略です。このプロジェクトは、3Dプリンタの製作方法や部品モデルなどの全データをオープンソースにすることで、誰でも複製できる3Dプリンタを作ろうというプロジェクトです。更には、3Dプリンタの部品自体を3Dプリンタで製作できるような形状に設計することで、"自己複製"という特徴を持たせることに成功しました。まるで生き物が繁殖するかのように3Dプリンタから3Dプリンタが生まれ、更にはオープンソースにより世界中の人々から改良が加えられ、生き物が歴史の中で進化するようにその性能を高めていきました。
このプロジェクトにより爆発的に3Dプリンタが普及しました。3Dプリンタの認知度が一気に高まり、それまでは数百万円した3Dプリンタが数十万円で自作できるようになったのです。そして現在では、自作せずとも各メーカから完成品の家庭用3Dプリンタを購入するができます。これも元をたどればこのレップラッププロジェクトが源流にあるんですよ。
3Dプリンタは本当に生き物みたいに増えて、進化してきたんです。すごく面白いですよね、ロマンがあります!!
3Dプリンタの選び方
では、実際に3Dプリンタをどのように選んでいけば良いのでしょう。手順を見ていきましょう。
目的を明確にしよう
3Dプリンタとネットで調べて、具体的な機種を見るのはワクワクして楽しいですよね。夢が膨らみますよね。ですが、具体的な機種の選定に入る前に、まず明確にしなければならないことがあります。
それが目的です。
3Dプリンタの選定に限った話ではありませんが、何をするにも目的は大切ですよね。何のために買うのか、なぜ必要なのかをまずはしっかりと洗い出しましょう。私もガジェット好きなので、興味と物欲だけで買ってみて、後から使わなくなったガジェットは数知れず。独身の頃は
「欲しい」と心の中で思ったなら
その時スデに購入は終わっている
という覚悟を持って、行動していましたが、結婚して子供を持つとそうは問屋が卸しません。いくら値段が下がったとはいえ、3Dプリンタは決して安くはないのです。3Dプリントしてモノが作りたいだけなら、3Dプリント代行サービスを使うという手もあります。
それでもダメ、絶対に手元に3Dプリンタが必要だという明確な理由や目的があるのであれば、そこで初めて購入を検討するというステップに踏み出すことができます。ここまで強く言うのは、ネット然り、私の周り然り・・3Dプリンタを買った人の大半は
結局、そんなに必要なかった
となるからです。私の周りの人でも、3Dプリンタを買った人が多いですが、体感的に8割くらいの人は、「最初は楽しかったけど結局そんなに作るものなかった」と言っています。そういう人は、3Dプリンタで何をするか、ではなく3Dプリンタの購入自体が目的となっているのです。
ちなみに私は
・ブログ記事のネタとして3Dプリント技術を取り扱いたい
・現在勉強中の電子工作と組み合わせて、ものづくりがしたい
・3Dプリンタの構造の勉強をして、自作の工作機械の開発に生かしたい
といった目的で買おうと思ってます。
予算を決めよう
家庭用3Dプリンタと一口でいっても、その価格はまさにピンキリです。安いものは1万程度から高いものは50万円以上まで、非常に幅広いです。最初に大まかな予算を決めておかないと、迷ってしまいます。懐事情に合わせて予算を決めましょう。私は予算は10万円と設定しました!
市場に出回っているものを見る限り、家庭用なら大体10万円くらいの予算で見ておけばかなり選択肢が広がると思います。
造形方式を決めよう
目的に応じて、3Dプリンタの造形方法を決めましょう。これを最初に決めておかないと選ぶことができません。3Dプリンタの積層方法にはざっくり分けると、"光造形"と"熱溶解積層法"と二種類あります。
光造形
光造形方式は、紫外線によって硬化する樹脂を用いて積層する方法です。光硬化性樹脂(UVレジン)にレーザを照射して、樹脂を硬化させます。1層目が硬化したら、また次の層にレーザを当てて硬化する・・という動作を繰り返して、樹脂を積層していきます。ちなみに1970年頃に生まれた最初の3Dプリンタはこの光造形方式です。
メリット
造形精度が良い
熱溶解積層法に比べて、形状精度が良く見栄えが良いです。フィギュアやアクセサリなど、表面の美しさを重視した用途で使う場合は光造形方式が良いでしょう。
騒音が小さい
レーザを照射して積層するため、機械的に動く部分が少なく、騒音が小さいのが特徴です。
デメリット
間が多い
段取りや洗浄など、とにかく手間が多いです。積層が終わった後も、UVライトに当てて二次硬化させるなど、後処理もあるため、色々と気を遣う必要があります。また、材料であるUVレジンも太陽光が当たるところに保管すると固まってしまうので、保管場所にも気をつけなければなりません。
熱溶解積層法(FDM)
熱溶解積層法は、熱で樹脂を溶かし、ノズルから材料を押し出しながら積層していく方法です。それこそプリンタがインクで印刷するように、ノズルから樹脂を押し出して1層、2層、3層・・・と印刷しを重ねていくことで、樹脂を積層していきます。ちなみに、上記で紹介したレップラッププロジェクトの3Dプリンタはこの熱溶解積層法タイプです。3Dプリンタブームの火付け役となった造形方式ですね。
Fused Deposition Moldingの頭字語でFDM法とも呼ばれます。また材料押出法という意味でFFF法(Fused Filament Fabrication)とも呼ばれたりします。この2つの言葉は同じ意味で使われているので、混乱しないように注意しましょう。
メリット
材料の入手性が良い
熱溶解積層法で使用する材料は、主にはABS樹脂かPLA樹脂です。一般的に広く普及している材料であり、非常に入手性が良いです。熱溶解積層法ではフィラメントと呼ばれる樹脂の糸のようなものを使います。カラーバリエーションも豊富で、光造形で使用するUVレジンよりも安価です。
拡張性がある
熱溶解積層法の3Dプリンタは、汎用的な機械要素の組合せで、非常にシンプルな構造です。自分で改造したり拡張したりすることができます。これが3Dプリンタの醍醐味の一つと言えるかもしれませんね。ただし、メーカの完成品の場合は、改造するとサポートが切れる場合がありますので、そこは事前に確認が必要です。
デメリット
騒音が大きい
光造形方式に比べて騒音が大きいです。最近では静音性を重視したモデルも出ていますが、機種によっては煩すぎて夜には使えないというものもあるそうです。
造形精度が良くない
これはあくまでも光造形に比べて・・という話になりますが、熱で樹脂を溶かすため熱による寸法変化の影響を受けます。そのため、造形精度が光造形に比べて劣り、印刷した層の後がくっきりと残りやすいです。また積層時の外気温の温度の影響も受けやすく、夏は印刷できたものが、冬は上手くいかなかったりと、印刷には環境に合わせたノウハウも必要です。
3Dプリンタの積層技術としては、他にも粉末焼結法、インクジェット法、粉末接着法、などがありますが、この辺りの技術は業務用の3Dプリンタに使われるようなハイエンドのものです。家庭用なら光造形か熱溶解積層法の2択から選ぶのが良いでしょう。
サイズを選ぼう
まず重要なのが、造形サイズです。造形サイズは最大でどれくらいのものを印刷できるのかという仕様です。明確な印刷物のサイズが決まっていたら、それに合わせて選ぶと良いでしょう。明確な印刷物のサイズが決まっていないのであれば、置く場所に合わせた機械の外観寸法で選べば良いでしょう。
サポートは充実しているか?
ほとんどの3Dプリンタが海外製です。トラブルがあった時、サポートしてくれるのか、保証は付いているのか、日本語のマニュアルは付いているのか・・・そういったサービス面も重要です。またブログやYOUTUBEなどで調べたとき、使い方などの情報が充実しているかも重要です。
私は改良や自作にも興味があるので、サポートはそれほど気にしませんが、3Dプリンタにトラブルは付き物です。自分でなんとかする自信がない方は、あらかじめ手厚いサポートがある機種を選ぶと良いでしょう。玄人は、
トラブルを乗り越えることで詳しくなるんだ!!
と言いますが、私はこれを雪山頂上理論と勝手に呼んでます。スキー上級者が、初心者をいきなり頂上に連れて行って、「滑って降りてこい、技術は転んで学べ」と放置する奴です。普通に怪我をしますよね。ちなみに体験談です。それと同じで、もしちょっとでも自信がないなら、無理をせずにちゃんとサポート環境にお金を払ったほうが良いですね。怪我しますよ?
精度とかは気にしなくて良い
3Dプリンタの仕様として、位置決め精度とか位置決め分解能などを謳っている機種もありますが、そういうものは一切気にしなくて良いです。一見、重要そうに見えるんですけどね。比較するだけ無意味ですので無視して良いでしょう。
3Dプリンタでは、プリンタそのものの精度よりも3Dプリントデータを生成するスライスソフトの性能やその日の気温、またはモデルの作り方の方が重要だと言われています。精度などのスペックに過剰にとらわれないようにしましょう。
私は、数千万円クラスの工作機械を設計する仕事をしており、約10年間以上、嫌というほど機械の位置決め精度と向き合ってきました。だからこそ断言しますが、家庭用3Dプリンタレベルの機械で、位置決め精度を議論すること自体、あまり意味がないんです。
具体的な機種を見てみよう
色々と調べた中で、特に気になった機種を3つ紹介します。
FLASHFORGE ADVENTURER3
説明する必要が無いほどに定番の3Dプリンタです。コンパクトにまとまった美しい筐体、稼働音45デシベルという低騒音設計、更には遠隔カメラでプリントの様子を確認することができる機能も搭載。家庭用3Dプリンタと検索すれば必ずヒットするベストセラー機です。とりあえず、このADVENTURERシリーズを買っておけば間違いはないでしょう。ソフトウェア、マニュアルともに日本語対応、故障時の修理サポートも充実しています。使っている人も多いので、ネット上に情報も満載です。非の打ち所がないですね。近未来感溢れるデザインもGOODです。部屋に置いていても、きっとスマートな印象ですよね。
ちなみにFLASHFROGE社は中国の3Dプリンターメーカです。2011年に設立された比較的新しい会社ですが、デスクトップ3Dプリンタのトップランナーとして業界を席巻しています。
XYZ PRINTING ダビンチJr.Pro
上述のADVENTURER3よりも、価格は高いですがプリントの品質が良いというレビューの多い機種です。10万円以下でありながら、業務用の3Dプリンタに近いクオリティと評判です。デザインも大きくRの取れた美しい形です。側面の"XYZ"というロゴは個人的にはちょっと自己主張が強すぎるかなーとは思いますが、なんかシティハンターっぽくて好きです。冴羽獠を呼べそうですよね。
ちなみにXYZPRINTING社は台湾の3Dプリンターメーカです。新金宝グループという産業機器メーカの子会社で、2013年に設立されました。超廉価版の3Dプリンタからプロ向けのものまで、幅広い3Dプリンタをラインナップしています。
Original Prusa i3 MK3S+
上述の2機種とは違い、外装のないTHE・3Dプリンタという感じの機種です。この3Dプリンタはレップラッププロジェクトの一部であり、世界で最も使われてる3Dプリンタでもあります。オープンソースとして構造が公開されていることで、改造部品やアップグレードが豊富です。
価格は少し高く、組み立て済みのものだと15万円くらいします。ただ、自分で組み立てる組立キット一式ならジャスト10万円です。組立にはおおよそ8時間くらい掛かるみたいですが、組立説明書もありますし、ネット上にも情報が多いです。自作にも興味があるという人は、少しチャレンジしてまず組立キットから始めても良いかもしれませんね。
ちなみに販売元であるPrusa Research社はチェコの会社です。
まとめ
本記事の復習をしましょう。
・3Dプリンタとは、材料を付加して形状を作る機械
・3Dプリンタが普及したきっかけはレップラッププロジェクト
・3Dプリンタを選ぶ前に“目的“をしっかり決めよう
・造形方式の定番は光造形方式と熱溶解積層方式
・ほぼ海外メーカなので、日本語サポートがあるか気にしよう
さて、結論ですが私は"Original Prusa i3 MK3S+"を買うことにしました。
予算きっかりですし、私が掲げた目的と一致していますしね。最初はADVENTURER3にしようと思っていたんですが、3Dプリンタの歴史を勉強していく内にレップラッププロジェクトに強く惹かれました。3Dプリンタの自己複製ってとても面白いコンセプトだと思いますし、それをキッカケに3Dプリンタが普及したってところにロマンを感じます。最初からパッケージ化されたものを使い倒すのも良いですが、3Dプリンタを勉強すればするほど、3Dプリンタの醍醐味は自作・改造にあるのかなーなんて感じました。流石に一から自作できるほどの知識やスキルはないので、まずは組立キットからチャレンジしていこうと思います!!
3Dプリンタが普及したことによる最も大きい功績は、ものづくりの形を変えたことです。インターネットの普及も後押しして、ものづくりは自分で作るDIY(Do It Yourself)からみんなで作るDIWO(Do It With Other)へと変わりました。“この広い世界のどこかにいる、名前も知らない誰か“と協力してものづくりをする。そこには国境すらありません。
知らない誰かの知恵、工夫、情熱をシェアすることができるんです。これって素晴らしいですよね。簡単に形を生み出せる3Dプリンタが普及したからこそ、このDIWOが実現したと言っても過言ではないでしょう。だったら、その恩恵を余すことなく受けなければ損ですよね?与える側にも成りたいですよね?だからこそ、3Dプリンタを買うという投資には非常に価値があるのだと思っています。本記事をきっかけに私と同じように3Dプリンタにチャンンジしてくれる人がいれば幸いです。
と、カッコつけておきながら買った3Dプリンタはまだ届いてないんですどね(笑)
本記事で紹介した3Dプリンタの知識は、下記の本を参考にして書きました。少し古いんですが、非常に勉強になったのでおすすめです。3Dプリンタの購入を考えている人は、まずこの本を読んで3Dプリンタの歴史や機構を学ぶと良いでしょう。
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