"機械"にとって"油"は無くてはならない存在です。皆さんも自転車のチェーンに油を注したことありますよね。金属が錆びないように保護したり、擦れるもの同士を潤滑して削れるのを防いだり・・・油は機械に色々な恩恵をもたらします。
就職活動では「私は潤滑油のような人間です」なんていうセリフが定番ですよね。これは「人間関係を円滑にしてチームをまとめることができます」といった意味のセリフですが、この例えからもわかるように、油はいつも機械を“サポート“するような役割を果たしています。RPGに例えるなら、油は“回復系の魔法使い“的な感じですね。
しかし、いつもはサポート役に徹している"油"が、主役として活躍する"すごい技術"があるんです。それが本記事で紹介する"油圧技術"です。
油圧技術は、油を使って機械を動かす技術のことです。油圧技術は、あらゆる技術の中でも“とにかく強力"で様々な機械に広く使われています。RPGに例えるなら、もうゴリゴリマッチョの格闘家です。そんなマッチョな“油圧”の世界を誰にでもわかりやすく紹介していきますよ。
油圧ってなに?
まず、"油圧"という言葉を分解して考えましょう。
油・・・・油です。これはもはや説明不要ですね。
圧・・・・圧とは、"圧力"のことです。
油圧技術は一言で言えば、“油に圧力を与えて、その圧力を使って色々なものを動かす技術“です。

具体的には、専用の機器やポンプなどで油に圧力を与えて、その力を油を使って伝達することで機械を動かします。油圧技術の最大の特徴は"小さな力を大きな力に変換することができる"ということです。しかも、変換して出せる力がとにかく大きいんです。この特徴を利用して、様々な機械で油圧技術が利用されています。油圧技術が使われている身近な例を見ていきましょう。

まず、工事現場でよく見かけるショベルカー。これは油圧技術の代表です。ショベルカーのアームは油圧技術で動いています。詳細は後述しますが、アームの部分に油圧シリンダと呼ばれる機器が付いていて、これを油圧の力で伸び縮みすることでアームを自由に動かすことができます。

自動車の油圧ブレーキも身近な例です。ペダルからマスタシリンダへ伝えた力を液体の圧力に変え、車輪側のピストンへ伝えます。ペダルのてこ比、シリンダの面積比、車種によっては倍力装置なども組み合わせて、ブレーキを作動させます。
ステアリングには、油圧で操作を補助するパワーステアリングがあります。ただし、すべてが油圧式というわけではなく、電動式もあります。方式の例はジェイテクトのステアリング製品の説明で確認できます。
補助機構のないステアリングは「重ステ」と呼ばれます。私は古い車が好きなので、愛車は重ステです。駐車の時はハンドルを回すたびに「フンッ」と気合を入れなければならないほど重いですよ。まあ、それが好きなんですけどね。
さて、どうして油圧を使うと小さい力を大きい力に変換できるのでしょうか。原理の基礎を見ていきましょう。
油圧の原理
まず、圧力とは単位面積あたりにかかる力です。手で壁を押す場面なら、平均的な圧力は「壁を押す力 ÷ 接触面積」で表せます。同じ力でも、押す面積が小さいほど圧力は大きくなります。力そのものと、面積あたりの力である圧力を分けて考えましょう。

密閉された静止流体に加えた圧力の変化は、流体の各部へ伝わります。これがパスカルの原理です。以下では、高さの差や摩擦などの損失を無視した理想的なモデルで説明します。

小さいピストンの面積をA1、加える力をF1とすると、加わる圧力PはF1 ÷ A1です。大きいピストンの面積がA2なら、取り出せる力はF2 = P × A2。したがって、F2 = F1 ×(A2 ÷ A1)となり、面積比に応じて力を大きくできます。
極端な例なら、小さい側に犬、大きい側に象を乗せて、象を持ち上げるような仕組みも考えられます。実物の装置では、強度や損失なども考慮する必要があります。

これが油圧の原理です。

油圧すげー、無敵じゃん!!
と思いますよね。ただ当然のことながら、力の変換と引き換えに失っているものもあります。それが距離です。図を見ればイメージできると思いますが、例えば犬側が10センチ下がっても、象側が10センチ浮くわけではありません。象は数ミリしか動かないかもしれません。このように動く距離と引き換えに力を得ているわけです。テコの原理みたいなものですね。
車のブレーキなどが良い例です。運転手がブレーキを踏み込む時は何センチも踏み込んでいますが、それによって実際に動くのはブレーキキャリパー内のピストンという部品で、動く距離は数ミリです。それでも油圧によって力が増幅されているので、ちゃんとブレーキとして制動力を発揮するわけです。
油圧の原理がわかったところで、油圧機器の一般的な構成を見ていきましょう。
油圧機器の構成
油圧機器は、大きく三つの構成に分けることができます。

・油圧ポンプ
・アクチュエータ
・制御弁
一つずつ説明していきます。
-油圧ポンプ

油圧ポンプは、電動機などから受けた機械的なエネルギーを使い、油を送り出します。送り先の負荷や流れへの抵抗に応じて圧力が生じます。ポンプが流れをつくり、その油を介してアクチュエータへ動力を伝えると考えると、回路の働きを理解しやすくなります。
アクチュエータ
アクチュエータとは、“入力されたエネルギーを物理的な運動に変換する機構“の総称です。ちょっと小難しい定義ですが、要するに圧力を動作に変換する機器です。油圧アクチュエータでは主に3つの動作が可能です。それぞれ動作に対応したアクチュエータが存在します。

・油圧シリンダ・・・直線運動
・油圧モータ・・・回転運動
・揺動シリンダ・・・揺動運動
油が機器に入り、圧力が掛かることで動作します。油圧シリンダの概略図を上図に示しました。ショベルカーのアームを動かしているのが、まさにこの油圧シリンダというアクチュエータです。見ての通り、仕組みは非常にシンプルです。油圧がシリンダの面を押して、ロッドが伸縮する。ただそれだけです。それは他のアクチュエータに関しても同じで、この構造のシンプルさが油圧機器の一つの特徴でもあります。
制御弁
制御弁の役割は油の圧力、流量、流れの方向を制御することです。代表的なものを挙げると
・圧力制御弁・・・油の圧力を制御して、アクチュエータの力を制御ができる
・流量制御弁・・・油の流量を制御して、アクチュエータの動作速度を制御できる
・方向制御弁・・・油の流れを制御して、アクチュエータの動作方向を制御できる
などがあります。その他にも色々な弁の種類がありますが、とりあえず代表的なこの三つ名前だけは用途と合わせて覚えておくと良いでしょう。
油圧ポンプ、アクチュエータ、制御弁などを組み合わせれば、油圧機器の力や動きをコントロールすることができます。これらを組み合わせて構成されるのが“油圧回路“というものです。本記事では、説明しませんが油圧技術を使いこなすには、この油圧回路の仕組みをしっかり理解することが極めて重要なんです。
油圧のメリット
油圧技術は具体的にどんなメリットがあるのかを紹介します。
動力伝達が容易
油を通す配管で、離れた場所へ動力を伝えられます。機械の配置に合わせてホースなどを引き回せることも利点です。実際には、供給と戻りの流路、圧力や流量を制御する機器などを含めて回路を構成します。
パワー密度が高い
パワー密度は、出力を質量や体積で割った指標です。油圧アクチュエータは、比較的小さな本体で大きな力や出力を得やすいことが特長です。ただし、電動機などとの比較では、回転速度、連続・短時間運転の条件、ポンプやタンクを含むシステム全体の大きさもそろえて考えます。
圧力を制限して過負荷へ対処できる
リリーフ弁などを用い、設定した圧力を超えると油を逃がす回路をつくれます。圧力の上昇を抑えるために役立ちますが、それだけで機械全体の安全が保証されるわけではありません。必要な保持機能や停止時の挙動も含めて設計します。
作動油が潤滑も担う
作動油は、力を伝えるだけでなく、機器内部の潤滑にも役立ちます。ただし、寿命は油の清浄度、温度、シールや部品の摩耗などに左右されるため、「電気機器より必ず長寿命」とは言えません。
液体で力を伝える原理は、水にも使えます。ただし、水を使う場合は潤滑性や腐食、材料との適合性などを考慮した専用の機器が必要です。油用の装置へ、そのまま水を入れて使うことはできません。
油圧のデメリット
ここまで良い事しか言ってきませんでしたが、油圧にももちろんデメリットがあります。代表的なものを紹介していきます。
油内のゴミの混入に弱い
油内にゴミが入ってしまうと、じわじわとアクチュエータなどを傷つけて動作不良を起こしたりします。油にゴミが混じっていないかを管理したり、フィルタをつけて綺麗にしたり、油の清浄度の管理には気を使う必要があります。ちなみに汚染のことを、工学の世界ではコンタミ(contaminationの略)と呼んだりします。
油が燃える可能性がある
鉱油系の作動油などは可燃性のため、漏れた油が高温部や火源へ触れるリスクを考える必要があります。作動液には種類があり、引火点や取り扱い条件も製品ごとに異なります。使用する製品の安全データシート(SDS)と設備の指定を確認してください。油種の例はENEOSの工業用潤滑油一覧で確認できます。
油漏れがある
配管の接続部やシールなどから油が漏れると、設備の不調だけでなく、作業環境や周辺の汚染にもつながります。適切な組立てに加えて、使用中の劣化や損傷を点検することが大切です。圧力が残った状態で配管を外さず、設備の保守手順に従って作業します。
油圧機器と省エネ(アキュムレータのお話)
油圧機器では、必要なときに必要な量の油を供給することが、省エネルギーにつながります。ポンプの回転数を制御する方法や、エネルギーを一時的に蓄えるアキュムレータを使う方法があります。回転数制御の例は油研工業の省エネ化システムの資料で確認できます。
気体を利用するアキュムレータは、油を送り込んで内部のガスを圧縮し、必要なときにガスの力で油を押し出します。代表的な構造の一つが、ガスと油を袋状のブラダで仕切ったものです。詳しくはNACOLのアキュムレータの解説を参照してください。

回路や運転パターンに合うように選定すると、蓄えた油を使っている間にポンプを停止するなどの運転ができます。ただし、省エネ効果は、必要な油量、圧力範囲、使用頻度などで変わります。
アキュムレータは省エネだけでなく、圧力の脈動や衝撃の吸収、非常時の油圧源などにも使われます。特定の機械へ一律に「向く・向かない」と決めるものではありません。NACOLの用途解説では、さまざまな使い方が紹介されています。
まとめ
本記事の復習をしましょう。
・油圧は“油に圧力を与えて、機械を動かす技術”
・油圧は小さな力を大きな力に変換できるのが特徴
・油圧は、パスカルの原理を利用して力を増幅している
・油圧機器は、油圧ポンプ、制御弁、アクチュエータで構成される
・昨今は油圧ユニットの省エネ化が注目されている
今回は基礎の部分だけをピックアップして紹介しました。油圧技術は、その動作原理はシンプルながら非常に奥深い分野です。とても大きい力を扱えるだけあって、一つ設計を間違えれば大きな事故に繋がりかねません。しかし、使いこなせばその可能性は無限大。油圧に関する知識は、機械設計者であれば身に着けておくべき必修科目と言えるでしょう。
油圧技術を利用するうえで特に難しいのが、油圧回路の設計です。もしもう少しツッコんで勉強したいのであれば、この本がオススメです。油圧回路の基礎がわかりますよ、ついでに空圧回路も学べるので一石二鳥です。
次に学ぶ:空気圧との違いと、油の役割
油圧と比較しながら学びたい方は、空気圧の基礎も読んでみてください。どちらも流体で力を伝える技術ですが、圧縮されやすさや装置の構成に違いがあります。
油圧で使う油には、力を伝える以外に、潤滑などの働きも求められます。粘度や粘度指数、油の劣化については、次の記事で基礎から説明しています。
空気圧について、体系的にガッツリ勉強したいという方は下記の書籍がオススメです。






